コラム
- M&A全般経営者の悩み連載
【連載】売却できる会社に育てる方法⑰ 人材定着策の立案と実行
これまでの連載で、企業価値を高める方法として、「事業の収益性の向上」「投資効率の最適化」「財務状況の見直し」「無形資産の把握と活用」「仕組み化」「経営理念、パーパス、ビジョン、ミッション等の言語化」「人員の再配置と最適化」「業務フローの構築」「業務マニュアルの整備」「コスト削減」「マーケティング戦略の立案と実行」「採用戦略の立案と実行」について解説してきました。本稿では、人材定着策の立案と実行について解説していきます。
◆これまでの連載記事
【連載】売却できる会社に育てる方法⑯「採用戦略の立案と実行」
【連載】売却できる会社に育てる方法⑮「マーケティング戦略の立案と実行」
【連載】売却できる会社に育てる方法⑭「コスト削減」
【連載】売却できる会社に育てる方法⑬「業務マニュアルの整備」
【連載】売却できる会社に育てる方法⑫「業務フローの構築」
【連載】売却できる会社に育てる方法⑪「人員の再配置と最適化」の注意点と手順
【連載】売却できる会社に育てる方法⑩「人員の再配置と最適化」の目的とメリット
【連載】売却できる会社に育てる方法⑨経営理念、パーパス、ビジョン、ミッション等の言語化
【連載】売却できる会社に育てる方法⑧仕組み化の手順と方法
【連載】売却できる会社に育てる方法⑦仕組み化のメリット
【連載】売却できる会社に育てる方法⑥無形資産の把握と活用
【連載】売却できる会社に育てる方法⑤財務状況の見直し
【連載】売却できる会社に育てる方法④投資効率の最適化
【連載】売却できる会社に育てる方法③事業の収益性向上のためのブランディング
【連載】売却できる会社に育てる方法②事業の収益性向上のための社内連携強化
【連載】売却できる会社に育てる方法①事業の収益性向上のための施策
【人材の定着とは】
人材の定着とは、社員やパート・アルバイトの方々が長く会社で働いていてくれることです。中小企業の場合、大手企業に比べると人材が少ないため、一人ひとりの社員が貴重な存在です。と言っても、労働人口が減少している日本では大手企業・中堅企業であっても優秀な人材は貴重でしょう。そのため、社員が会社に定着し、長く働いてくれること。その環境整備をすることは、会社にとって極めて重要な取り組みと言えます。
人材が会社に定着してくれると、以下のようなメリットがあります。
▼人件費の削減
新しく社員を採用する場合は、採用コストや研修コストがかかります。社員が定着すれば、これらのコストを削減することができます。
▼生産性の向上
社員が会社に定着すれば、仕事に慣れ、効率的に働くことができるようになります。これにより、生産性が向上するでしょう。人材の入れ替わりが激しければ、何度も同じ研修をする必要があります。
▼企業文化の醸成
社員が長く働き続けてくれることで、企業文化が醸成されます。企業文化が醸成されると、それに共感する人材が集まりやすくなり(類は友を呼ぶ現象)、定着率も向上するでしょう。
【なぜ社員は会社を去っていくのか】
社員が会社を辞める理由はさまざまですが、一般的に多い退職理由は以下の10つです。
・給与や待遇に不満がある
・仕事内容にやりがいを感じない
・人間関係が悪い
・会社の将来性に不安がある
・長時間労働で疲弊している
・転勤や異動を希望しているのに受け入れてもらえない
・子育てや介護で仕事と両立するのが難しい
・新しいことに挑戦したい(仕事に飽きた)
・自分のキャリアアップにつながる仕事に就きたい
・単に退職したい(漠然と今の仕事や会社が嫌)
「優秀な社員ほど辞めていく」ということはよく起こりますが、退職理由の多くは「この会社にいても、これ以上成長できない」というものです。能力は人によってムラがありますので、個々人に合ったキャリアプランを社内やグループ会社内で描けるような設計が必要でしょう。
【人材定着策の立案手順】
前述の退職理由を踏まえて、社員の定着率を高めるためにできることには、以下のようなことがあります。
・給与や待遇を改善する
・仕事内容にやりがいを持たせる(仕事の意義を説明する)
・目標設定や評価制度を導入する
・人間関係を改善する(部署内や異なる部署を横断した交流を図る)
・会社の将来性を明確にする
・メンター制度を導入する
・研修制度を充実させる
・長時間労働を是正する
・転勤や異動の希望に応える
・子育てや介護支援制度を充実させる
・社員の挑戦を応援する(ジョブローテーション制度、社内起業制度、のれん分け制度など)
・社員のキャリアアップを支援する
・社員が退職したくなるような会社文化をつくる
・一度退職しても復職できる制度をつくる
・一定のルールを守れば副業を解禁にする
・アンケート調査や個別面談(1on1)を実施する
社員の定着率を高めるために、これらの施策を実施することで、社員のモチベーションを高め、仕事への意欲を向上させることができるでしょう。
なにより重要なのは、社員の声に耳を傾けることです。社員の勤続年数をのばすための答えやヒントは、現場(社員)にあります。
【大切なのは策よりも実行と一貫性】
素晴らしいビジョンやミッションを掲げ、人事評価制度を整備しても、優秀な社員が辞めてしまうことはあります。その理由には、
・ビジョンやミッションに共感できなくなってきた(現実との乖離がある)
・人事評価制度が公平で納得できるものになっていない(形だけの制度になってしまっている)
・やっぱり人間関係が悪い
などがあります。
ビジョンやミッションを掲げるだけでは、社員のモチベーションを高め、仕事への意欲を向上させることは難しいでしょう。社員が会社に定着するためには、ビジョンやミッションに共感できることはもちろん、仕事内容にやりがいを感じ、人間関係が良好であることも重要です。また、会社の将来性に不安を感じたり、長時間労働で疲弊したりしている場合は、社員は辞めてしまう可能性が高いでしょう。
策を講じることも大切ですが、やはりそれを実行してこそ価値があります。そして、制度と実態に乖離が生じないよう、一貫性を持つことです。「社長はきれいなことを言っていたけど、実態は違う」となれば、社員の不満は募り、結局は退職してしまいます。
「言葉にしたことはちゃんと実行する」という当たり前のことをどこまで愚直にできるかです。
以上で、「売却できる会社に育てる方法」の連載は終了です。M&Aだけでなく、日々の会社経営の参考になれば幸いです。
中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。