コラム

前回の「売却できる会社に育てる方法②事業の収益性向上のための社内連携強化」では、社内連携強化のための社員教育や権限委譲、インサイドセールスの導入などについてお伝えしました。本稿では、事業の収益性向上のためのブランディングについて解説します

 


【ビジネスモデルの短命化にどう対応するか】

新型コロナウイルスの感染拡大等による経済環境・経営環境の変化から、従来のビジネスモデルの見直しを迫られている会社が増えています。「ビジネスモデルの短命化」もあり、同じビジネスモデルが20年・30年と継続できることは稀です。それだけ不確実性が高まっているとも言えるでしょう。現在進行形で、新規事業や業種転換、多角経営化を模索している会社も多いのではないでしょうか。

コロナ禍でよく話題に挙がった「DX(デジタルトランスフォーメーション)」は、効率化・生産性向上とセットで語られることも多いのですが、DXは本来、効率化・生産性向上だけの話ではなく、ビジネスモデルの変革のことでもあります。

DXでビジネスモデルを変革し、収益性を向上させることで企業価値を高め、M&Aによって会社を売却できる可能性を上げることはできます。収益性の向上や収益力の強化には、ビジネスモデルをしっかり分析し、無駄なコストは削減し、さらにDXで生産性を上げていくことが欠かせません。

収益性の向上・改善を目指すのであれば、経営戦略上の骨子を見直すところからスタートさせる必要があるでしょう。現在の課題を洗い出さなければ、具体的なプランを立てられないからです。例えば、以下のようなチェック項目があります。

☑ コンバージョン率などの営業力は目標としている水準をクリアできているか
☑ 顧客に対して自社商品やサービスの価値を提供できているか
☑ 競合他社に勝る強みや優位性(ブランド)があるか

 

上記のような課題提起を社内で定期的に行い、部署内あるいは部署を越えてブレストなどをしてみるのもひとつの方法です。対話から解決策を発見できたり、生まれることがあります。「ビジネスモデルは短命化している」という前提を社内で共有できれば、危機感を共有し、対策を練ったり講じたりすることができるでしょう。もちろん、自社が買い手となりM&Aによって新規事業の立ち上げや業種転換、多角経営化を実現するという選択肢もあります。

 


【高価値の商品・サービスを開発する】

M&Aで会社を売却する場合は、「自社の商品・サービスの強みはこれである」と明確かつシンプルに説明できた方が、買い手(譲受)企業を見つけやすいでしょう

避けないといけないのは、自社の商品・サービスの価値を「自分事」として考えてしまうことです。会社側が感じている価値と顧客が感じる価値は違うことがあるため、注意が必要です。顧客にとって本当に価値があるものなのか?は、会社として常に考え続けないといけないでしょう。顧客にとって価値の高い商品・サービスでなければ、LTV(ライフ・タイム・バリュー)の長い顧客を獲得し、信頼関係を深化させることはできません。

では、顧客にとっての価値とは、どう定義すれば良いのでしょうか。

『サービス・マネジメント』(ダイヤモンド社刊)の著者である実業家のカール・アルブレヒト氏は、「価値の4段階」を以下のように定義しています。

◆段階1「基本価値」

不可欠な価値であり、提供されなければクレームや取引中止につながる。

◆段階2「期待価値」

顧客が当然のように期待する価値であり、提供されなければ、クレームに至らなくても、リピートにはつながらない。

◆段階3「願望価値」

期待はしていないが、もし実現できれば高く評価される価値であり、実現できなくとも不満にはならない。

◆段階4「予想外価値」

顧客の予想をはるかに超える価値であり、もし提供できれば、顧客は感動し、良い口コミがうまれる。

参照元:HubSpot公式サイト「戦略的な「顧客価値の提供」とは?スターバックス・ザッポス社の事例をもとに解説」(https://blog.hubspot.jp/customer-value

 

「カスタマー・サティスファクション(顧客満足)」「カスタマー・ディライト(顧客感動)」という言葉がありますが、上記の段階1~3がカスタマー・サティスファクション、段階4がその先のカスタマー・ディライトであると整理できるでしょう。

顧客が会社やその商品・サービスに価値を感じてくれるようになれば、LTVの長いロイヤルカスタマーになってくれる可能性が高まります。顧客の視点に立ち、上記の4段階の価値について検証をくり返していくと、より価値の高い商品・サービスへと成長させていけるでしょう。それができると、会社の価値も高まり、会社を売却できる可能性も高まります

 


【圧倒的なブランドで差別化を図る】

顧客が感じている価値の段階を定義できたら、競合他社の商品・サービスとの差別化を図り、ブランドを築いていく必要があります。

マーケティングの分野では、“差別化”とは「競合他社の商品・サービスと比較し、差異を設けることで優位性を得るための戦略」とされています。だれもがインターネットで会社の公式サイトや口コミサイト、比較サイト等のさまざまな情報にアクセスでき、比較検討できるようになっているため、差別化戦略が難しくなってきているとも言えます

しかし大量の情報にさらされているからこそ、明確に差別化できる戦略が効力を発揮します。差別化戦略やポジショニング戦略と同様に重要なのが、「ブランディング」です。“ブランディング”とは、「○○と言えば自社(ここに社名や商品名・サービス名が入る)」の○○を深掘りし、○○を考えたときに顧客や見込み客に自社や商品・サービスを思い起こしてもらえるようにすることです。

最近は、「ビジョン」「ミッション」「パーパス」なども注目されるようになり、これまでは商品・サービスにしか着目していなかった顧客・消費者も、その会社がどのようなポリシーを持って経済活動をしているのか、環境に対する取り組みはしているのかなどにも、目を向けるようになってきています。そのため、商品・サービスが誕生した背景やストーリーにもスポットを当て、言語化して情報発信することで、競合他社との差別化につながる場合もあります。そしてその積み重ねが、ブランディングにつながる場合もあります。ブランドは一夜にしてできるものではなく、日々の積み重ねによってできると言って良いでしょう

 


【ブランドとは一貫性のこと】

「ブランド」は、すぐにできるものではありませんし、他社のマネでつくり上げられるものでもありません。二番煎じや亜流では見向きもされないのがブランドです。

顧客から選ばれる、選ばれ続けるということは、代わりがきかない存在になるということです。世界で名の知られるグローバル企業も、会社の規模が小さかった頃からの創業者のこだわりや思いが、会社のブランドや経営方針になっていることがあります。

例えばアップル社は、創業者のスティーブ・ジョブズのこだわりが製品に反映されています。スティーブ・ジョブズが禅に傾倒していたのは有名な話です。パナソニックの“らしさ”である「リストラしない」という経営方針は、1929年の世界大恐慌時にも貫かれました。そんな松下幸之助の経営方針に社員が感激したと言います。トヨタの有名な「カイゼン」も、創業者が提唱し、社員の大野耐一が体系化して確立したものです。

いずれも創業者のこだわりや思いが軸になっており、それがいつしか伝統になって、その企業を愛するコアなファンが生まれ、やがて多くの消費者から「選ばれる存在」となったわけです。一貫性がなければ、ブランドにはなり得ません。

また、「インナーブランディング」という、社員や株主などのステークホルダーに対して行われるブランディングも重要です。企業理念、ビジョン、ミッション、パーパスなどを社内に浸透させることで、社員のロイヤリティーが向上し、社員同士の連携も強化されます。

企業理念などに共感してくれた人材を採用できるようになり、社員が自発的に情報を発信するなどして、社員が会社のブランディングに参画してくれるようになれば、理想的でしょう。企業理念、ビジョン、ミッション、パーパスなどを社員自らが発信してくれるようになれば、会社の基盤も強化されます

インナーブランディングが徹底されると、売上や業績が向上することもわかっているため、社内で「自社のブランド」について議論することは極めて重要です

 

次回は、「投資効率の最適化」について解説していきます。


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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