コラム

前回の「【連載】売却できる会社に育てる方法① 事業の収益性向上のための施策」では、営業力の強化・効率化と営業人材の育成に焦点を当ててお伝えしました。本稿では特に、事業の収益性を高めるための「社内連携の強化方法」について解説します

 


【社内連携の強化方法】

営業履歴の可視化やナレッジの組織への落とし込み等で営業部門の個人間、複数の営業部門間の連携が進んだら、次は他部門との連携も強めていきましょう。コストセンターとプロフィットセンターに優劣意識があると事業の発展はうまくいきません。

「自分の仕事はここまで」と割り切るのではなく、職域を超えてお互いの知見や情報を交換しつつ、それぞれの専門領域を高めながら会社全体の連携を図ることが重要です。例えば、新規顧客開拓の営業部門と、既存顧客のフォロー営業が分かれていたり、フォロー営業を営業事務などのチームが行う場合、実はフォロー営業で日々お客様と接点を持っている人の方が顧客ニーズを深く把握しており、セルアップ・クロスセルの機会を知っていることもあります。仮にその人がクロージングは得意ではなくても、他の営業にサジェストすることは可能ではないでしょうか。

また、いわゆるフィールドセールスとインサイドセールス・デジタルマーケティングで部門が分かれている会社もあります。「数字」は、営業の武器です。インサイドセールス・デジタルマーケティングで獲得したデータなど、客観的な数字を明示できる営業とそうでない営業では、クロージング力に差が出るでしょう。数字に強いセクションと分析データを共有し、営業ツールに落とし込むなど、社内連携は欠かせません。

 


【連携強化のための社員教育】

「社内連携を強化しよう」といくら口で言っても、そう簡単にできるものではありません。やはり、現場で管理職・マネージャーが社員に手本を見せることが重要でしょう

営業力を強化するために、OJTの一環でマネージャーなどの上司が部下に営業の手本を見せる会社が多いと思います。

厚生労働省が2018年に公表した「能力開発基本調査」という調査報告によると、73.6%もの会社が「OJTを重視している」と回答しています。座学・合宿などの研修よりも、現場で学ぶことで得られる知見が多いことは間違いありません。

マネージャーとして「管理するだけの業務」になってしまうと、現場のリアル感を忘れてしまいますので、同行営業などで手本を見せていくと良いでしょう

出典:平成30年度 能力開発基本調査|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/11801500/000496285.pdf

 


【社員の自立を促すための権限委譲】

「学ぶは真似ぶ」と言いますから、現場でマネージャーが手本を見せたり、OJTでロープレをして上司の営業スタイルを完全コピーさせたりするのも初期段階の教育としては悪くありません。しかし、「社員を自立させるためにはどうすれば良いか」も、意識しておく必要があるでしょう。特に営業職は、型にハマった営業スタイルが通じることもありますが、そうでないこともあります。例えば、ひとつの商品・サービスを、特定のターゲット層にだけシンプルに販売していく場合は、成功率の高い営業方法をコピーする方が有効でしょう。しかし、商品・サービスをオーダーメイドでカスタマイズしたり組み合わせて提案する場合は、応用力・柔軟性を高める必要があります。

そんな多様な営業力を磨くためには、「なぜこの質問をされたのか」「どこが間違っていたのか」など、セルフフィードバックと上司からのフィードバックを通じて、社員が自分の頭で答えが出せるようにならなければ成長しません。

社員が自分で考え、自分で回答が導き出せるようになるまで、上司・マネージャーは辛抱強く続ける必要があります。何度でも同じことを言い続けないと伝わらないのです。

また、自立を促すためには「ここからここまでは、判断を任せる」と権限委譲していくことも欠かせません。「社内の会議や打ち合わせがやたらと多い」ということは、権限委譲ができていない証です。頻繁に話し合いや確認をしないと仕事を進められないということですから、しっかりと権限委譲して自立性を高めるようにしましょう。「上司・マネージャーに都度都度確認依頼が来る」というのも権限委譲ができていない証ですが、徐々に頻度を減らせるように「良いよ、任せる」と伝えることも必要です。

 


【インサイドセールスを取り入れてスモールステップを踏む】

営業職でない人に「売上に貢献せよ」と言うのは酷な話ですが、インサイドセールス(デジタルマーケティングやインバウンドマーケティングとも言う)という営業スタイルを取り入れ、スモールステップを踏んで徐々に売上・業績への貢献度を高めてもらう方法もあります

インサイドセールスとは、集客のためのウェブサイトやメルマガ、SNSなどを活用して顕在性の高い見込み客を洗い出し、売上の確度を高める流れをつくって営業にパスする連携営業のことです。いわゆる「プッシュ型営業」を嫌う傾向が強まっていることから、見込み客を育ててから営業がクロージングするスタイルをインサイドセールスと言います。

インサイドセールスには、例えば以下のようなメリットがあります

  • ウェブサイトなどで一度にたくさんの人にアプローチができる
  • 問い合わせ内容から、見込み客のニーズを事前に知ることができる
  • 少人数の人員でも成果につなげることができる
  • 対面営業が得意でない、経験がない人でも始められる

特にBtoBの営業戦略においては、このインサイドセールスに注目が集まっています。営業リストに片っ端から電話をしてテレアポをするよりも、インサイドセールスの方が効率的と考える会社が増えてきているからです。

インサイドセールスでは、ターゲット層が必要としているであろうお役立ち情報をオウンドメディアなどのウェブサイトやメルマガで情報発信し、リードとして育てていくリードナーチャリング(見込み客の育成)を行います。しかし、ひとつの手法だけで見込み客の興味を引くのは難しいという現実がありますので、SNSやプレスリリースなど、複数の手法を駆使して継続的に情報発信をし、問い合わせには即返信するなどして、最終的には営業が売上につなげていきます。

インサイドセールスでは、MA(マーケティング・オートメーション)ツールなどを活用して、プッシュ通知やリリース配信といったアクションを起こすタイミングを決めていきます。

インサイドセールスを取り入れ、出張などの物理的に動き回る営業社員の工数や労力を最小限に抑えつつクロージングの確度を上げることができれば、コスト削減と売上向上を同時に実現させ、収益力向上に貢献できるでしょう

 

次回は、「事業の収益性向上のためのブランディング」について解説していきます。


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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