コラム
- M&A全般経営者の悩み連載
【連載】売却できる会社に育てる方法④ 投資効率の最適化
「【連載】売却できる会社に育てる方法① 事業の収益性向上のための施策」では、企業価値を高める方法として、「事業の収益性の向上」「投資効率の最適化」「財務状況の見直し」「無形資産の把握と活用」の4つを挙げ、これまで事業の収益性の向上について解説してきました。本稿では、投資効率の最適化について解説していきます。
【投資効率の最適化とは】
コンサルティングファームのアクセンチュアが公式サイト「accenture.com」で、売上拡大を達成するための5つの条件「S-P-E-E-D」としてSを最初に挙げているように、
【S】投資の最適化(Spend optimization)
利益を生み出すコンテンツに対して、最適な投資を行うこと。
は、会社経営においてとても重要なことです。「投資」と言われると、金融商品や不動産への投資を想像してしまうかもしれませんが、事業を行うことも投資の一つです。
例えば、「見込み客リストにDMを送ってテレアポをし、営業に行って商品を販売する」という行為も投資と言えます。
・見込み客リストの取得や管理システムにかかるコスト
・DMのデザインや制作、印刷、発送にかかるコスト
・テレアポの電話代や営業の人件費、交通費
などの先行投資を行い、リターンとして商品を販売した売上・利益を得ることになります。このような投資効率を最適化させることが、企業価値を高めるためには大切です。
【ROIとROIの計算方法】
ROIという言葉を聞いたことのある経営者の方も多いでしょう。ROIはReturn On Investmentの略で、投資利益率や投資対効果と訳されます。投資した資本からどの程度の割合で利益を得ているかを表す指標です。
ROIは、株式投資の収益性や不動産投資の収益性、企業の総合的な収益性を計測するために用いられます。また最近では、広告にかかる費用に対して得られる費用対効果の指標としても用いられています。「コスパ(コストパフォーマンス)」と言った方が尚わかりやすいかもしれません。
ROIの計算方法は、以下のとおりです。例としてわかりやすいため、不動産賃貸事業のROIとします。
ROI = 年間の収益 ÷ 自己投資額 × 100
自己投資額だけではなく、銀行からの借入金も合計した総投資額で計算すると、より実質的なROIがわかるでしょう。
融資を受けてマンションを以下の内容で5,000万円で購入したとすると、
・5,000万円のうち、1,000万円は自己資本、4,000万円は銀行融資
・表面利回りは10%
・管理費用は家賃収入の40%
・銀行からの融資の返済は年200万円
※簡略化のため、購入時の諸費用や減価償却費などは除きます。
家賃収入は、5,000万円 × 10% = 500万円
管理費用は、500万円 × 40% = 200万円
となり、利益とROIは
利益:500万円 — 200万円(管理費用) — 200万円(返済) = 100万円
ROI:100万円 ÷ 1,000万円 × 100 = 10%
になります。ROIが10%ということは、1年間で自己資本の10%を回収できるということです。
不動産賃貸事業で自己投資資本を効率良く回収するためには、
・家賃収入を増やして管理費用を減らし、利益を大きくする
・銀行からなるべく多くの資金を調達し、自己資本比率を下げる
という2つの方法があることになります。
【固定資産の最適化と流動資産の最適化】
「投資効率の最適化」とは、言い換えれば「事業の無駄をなくすこと」です。事業に無駄がなくなれな、おのずと企業価値は向上するでしょう。そのためには、固定資産の最適化と流動資産の最適化を行う必要があります。
◆固定資産の最適化
固定資産には、設備や不動産、本業とは関係のない株式などが挙げられます。これらの固定資産が活用されていない場合は、利益を生まないだけでなく、固定資産税の課税対象となって収益を圧縮してしまうこともあります。
活用できていない固定資産は、売却または活用することで事業改善に役立てた方が良いでしょう。重要なのは、その固定資産が収益を生んでいるかという点です。「ただ所有しているだけ」であれば、余計な資産ですから売却して売却益を再投資する方が有効です。
◆流動資産の最適化
流動資産(事業資産)には、未回収の売掛金や在庫、仕入れの買掛金などが挙げられます。これらは、事業の運転資本(資金繰り)に関わります。
資金繰りの効率化のためには、
・売掛金の回収時期の見直し
・在庫の回転率の見直し
・買掛金の支払時期の見直し
などを行い、改善していきます。「仕入れ代金の支払い時期に余裕があり、在庫を抱えている期間が短く、商品の販売から支払いまでの期間が短い」という状況であれば、比較的良い経営状況にあります。
そんな状況をつくるために、余計な固定資産を売却し、その資金で在庫管理システムなどを導入して効率化を図ることも考えられるでしょう。キャッシュフローが改善され、経営が安定していれば、企業価値も高まります。
次回は、「財務状況の見直し」について解説していきます。
中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。