コラム

これまでの連載で、企業価値を高める方法として、「事業の収益性の向上」「投資効率の最適化」「財務状況の見直し」「無形資産の把握と活用」について解説してきました。これらの方法とともに知っておきたいのが仕組み化です。本稿では、仕組み化の手順と方法について解説していきます。

◆これまでの連載記事
【連載】売却できる会社に育てる方法⑦仕組み化のメリット
【連載】売却できる会社に育てる方法⑥無形資産の把握と活用
【連載】売却できる会社に育てる方法⑤財務状況の見直し
【連載】売却できる会社に育てる方法④投資効率の最適化
【連載】売却できる会社に育てる方法③事業の収益性向上のためのブランディング
【連載】売却できる会社に育てる方法②事業の収益性向上のための社内連携強化
【連載】売却できる会社に育てる方法①事業の収益性向上のための施策

 


【仕組み化のための手順①「業務の棚卸・可視化」】

会社の仕組み化や業務の仕組み化は、中小企業が出口戦略としてM&Aや親族内承継、社内承継(MBO)を検討する上で欠かせないことでしょう。「社長やベテラン社員が、極めて属人的な職人技で業務をしている会社」を引き継いだとしても、第三者がその事業を継続することは困難だからです。

前回は仕組み化のメリットについて説明しましたが、なにもすべての業務を仕組み化すべきということではありません。さまざまな業務の中でもなにを、どのように仕組み化するのか。その手順について解説していきます。

仕組み化のためにまず進めるのは、「業務の棚卸・可視化」です。その業界業種の専門家ではない人が見ても、業務内容のプロセスがわかる形にしていきます。この業務の棚卸・可視化を行う際は、以下の3つのタイプに業務を仕分けします。

  1. 直感・職人タイプ:経験や知識、独自のセンスで高度に判断する業務
  2. 選択タイプ:一定のパターンから選択する業務
  3. ルーチンタイプ:新人社員を含め、だれがやっても同じ業務

 

業務日報の確認や社員との面談を通じて、社内でどんな業務が行われているのかを書き出してみてください。社長が把握していない業務も見つかるでしょう。書き出した業務を、上記3タイプに仕分けしていきます。

書き出す際は、第三者が見てもわかるように、細分化しておくと良いでしょう。例えば、「メール・電話対応」とざっくりと書き出すのではなく、「既存顧客のメール対応」「既存顧客の電話対応」「見込み客のメール対応」「見込み客の電話対応」などのように書き出していきます。

 

◆直感・職人タイプの業務

直感・職人タイプの業務は、言い換えれば「付加価値業務」です。会社の価値そのものとも言えますので、仕組み化に労力を割くよりも、とにかく場数を踏んで経験を重ねることで磨いていく方が効果的かつ効率的でしょう。

◆選択タイプ、ルーチンタイプの業務

選択タイプ・ルーチンタイプの業務は、言い換えれば「できて当たり前業務」です。できないと、むしろ問題が起きてしまいます。新人社員でも対応できるように、仕組み化・マニュアル化を進めておくと良いでしょう。

棚卸・可視化を行っていくと、「思ったより選択やルーチンタイプが多かった」「マニュアル化すれば他の人でもできそう」などの発見があるはずです。

 


【仕組み化のための手順②「現状把握と課題抽出」】

業務の棚卸・可視化ができたら、次は現状把握と課題抽出を行います。手順①で棚卸・可視化した中で、仕組み化しやすい業務は「選択タイプ」と「ルーチンタイプ」です。この2つの業務から、さらに以下の4つに該当する業務を抽出していきます。特にブラックボックス化した業務は、仕組み化する上での重大な課題です。

・やってもやらなくても良い無駄な業務
・社内で必ず行うべきコア業務(業績に直結する業務など)
・必ずしも社内で行う必要のないノンコア業務
・特定の社員でしか対応できないブラックボックス化した業務

 

だれもが無駄と認識している業務は、すぐにでもやめてしまって良いでしょう。コア業務とノンコア業務の分類は、会社の方針等によって左右されます。ブラックボックス化した業務は、この仕組み化を機にオープンにして属人化を解消しておくと良いと思います

 


【仕組み化のための手順③「仕組み化の方法をプランする」】

次の手順は、仕組み化のプランニングです。特定した課題に対して、どのように仕組み化するのが最適なのか、いつまでに仕組み化することを目指すのかを決定していきます。仕組み化の際に必要になるのが、以下の3つのツールです。

・各業務のフローチャート
・各業務のマニュアル
・FAQシート

 

まずは、各業務の全体像を把握しておくと業務への理解が深まります。そのために必要になるのが、各業務のフローチャートです。自分が「全体の流れのどの工程の業務を行っているのか」を把握しておけば、担当している工程前後の担当者や業務内容も知ることができます。円滑に業務を進める上でも、相互理解は欠かせません

マニュアルは、業務毎に作成しておく必要があります。これも、仕組み化して各業務の再現性と効率性を高めるために欠かせません。マニュアルが整備されれば、それを確認するだけでいつでもだれでも、同じ業務を効率良く再現することが可能になります。ここで注意したいのは、「マニュアルをつくって満足しないこと」です。マニュアルが活用されているかまで確認していかなと、マニュアルの価値を発揮できません。高頻度に行う業務であれば、ITツールなどを用いた自動化も有効でしょう。

FAQシートは、マニュアルをつくって終わらせないためにも必要なツールです。FAQシートが充実すればするほど、「よく聞かれる質問」を可視化できることになります。「社内には属人的な業務が多い」と感じていても、可視化してみるとそうでもないことがほとんどです。FAQシートを充実させるほど、属人化した業務も解消できるでしょう

 


【仕組み化のポイント】

これらの仕組み化を推進する上で欠かせないのが、「自分でやった方が早いし良いという考え方を捨てること」です

仕組み化ができない会社は、

「そもそも仕組み化のプロセスすべてが面倒」
「属人的な業務ばかりだと思い込んでいる」
「マニュアルだけつくって満足している」

などの傾向があります。特に業務が属人化している場合は、「業務の内容ややり方を説明するのが面倒だし、マニュアルをつくっている時間がない。自分でやった方が早い」と、仕組み化すべきだと思っていても、目の前の業務に追われて着手できません。

まずは、週に1時間でも仕組み化のための時間を確保すると良いでしょう。いきなりすべての仕組み化を短期間で実現できなくても、まずはスモールステップで小さな一歩を進めるのです。その積み重ねが、仕組み化につながっていきます

 

次回は、「経営理念、パーパス、ビジョン、ミッション等の言語化」について解説していきます。


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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