コラム

前回までに、企業価値を高める方法として、「事業の収益性の向上」「投資効率の最適化」「財務状況の見直し」「無形資産の把握と活用」について解説してきました。これらの方法とともに知っておきたいのが仕組み化です。仕組み化ができていれば、会社を売却できる可能性も高まります。本稿以降、仕組み化について解説していきます

◆これまでの連載記事
【連載】売却できる会社に育てる方法⑥無形資産の把握と活用
【連載】売却できる会社に育てる方法⑤財務状況の見直し
【連載】売却できる会社に育てる方法④投資効率の最適化
【連載】売却できる会社に育てる方法③事業の収益性向上のためのブランディング
【連載】売却できる会社に育てる方法②事業の収益性向上のための社内連携強化
【連載】売却できる会社に育てる方法①事業の収益性向上のための施策

 


【仕組み化とは】

仕組み化を一言でいうと、「会社が永続できる状態にすること」です。極力、業務の属人化を避け、だれが行ってもほとんど同じ成果を得られるようにしていきます。

この仕組み化を実現することで、社長や優秀な社員が行っている業務をだれでも担当できるようになり、社長や優秀な社員は別の業務に時間を使うことができます。さらに、その仕組み化をAの業務、Bの業務、Cの業務…とくり返していけば、社内の多くの業務をだれでも担当できる良いサイクルができてくるでしょう。特別優秀な人がいなくても一定の成果を出せるようになれば、結果として「会社が永続できる」ようになります。社長がいなくても会社が回るようになれば、当然ですが買い手(譲受)企業も見つけやすくなるでしょう

社内には多岐にわたる業務がありますが、優先して仕組み化を行うのは「社長の業務」が良いと思います。社長の業務の中で、ルーチン業務になっていることはないでしょうか。

・データの確認や入力、集計
・メールの確認や連絡
・在庫管理
・受注管理
・見積もり作成
・書類作成
・経費精算

などの業務は、比較的仕組み化しやすい対象です。社長がルーチン業務ばかりをしていると、会社の成長は望めません。そのため、まずは社長の業務を仕組み化することをオススメします。その後、役員や社員の業務の仕組み化を検討していきましょう。

 


【仕組み化するメリット】

仕組み化を実現できると、以下のようなメリットがあります。

 

◆仕組み化のメリット①事業拡大

仕組み化は、「だれが行ってもほとんど同じ成果を得られる」ということですから、例えば店舗ビジネスであれば、チェーン店化やフランチャイズ化が可能になります。2店舗目、3店舗目と店舗拡大していけば、その分売上はアップするでしょう。また、店舗ビジネス以外でも、仕組み化で業務が整理されると、社長は重要な仕事に時間を使えるようになります。新規事業の立ち上げや、新規顧客の開拓などで事業を拡大することもできるでしょう。

 

◆仕組み化のメリット②ブラックボックス化を防げる

「担当者しか業務内容がわからない」というブラックボックス化は、多くの中小企業で起こっていることです。そうなると、その担当者が休んでしまったり、退職してしまったりすると業務が止まることになります。また、ブラックボックス化すると社員の不正にもつながりかねません。仕組み化を行うことで業務の再現性を高め、だれでも担当できるようにしておくと、ブラックボックス化の防止になるでしょう

 

◆仕組み化のメリット③建設的な議論と業務改善

業務が属人化していると、なにかミスやトラブルが起こると、その原因を人に求めてしまいがちです。「あの人が原因だ」となれば、建設的な議論や改善ができません。ミスやトラブルの原因を仕組みに求めるようになると、「どの仕組みを変えればミスが起こらないだろうか」という議論やコミュニケーション、業務改善ができるようになります

 

◆仕組み化のメリット④人材育成

仕組み化する本当の目的は、人の育成にあります。設備やシステムを導入することで一気に仕組み化できる業務もありますが、その設備やシステムを使うのは人です。せっかく大きな投資をしても、その設備やシステムを使いこなせなければ無駄な投資になってしまうでしょう。

しかし、設備やシステムがあることで、人が育ちやすくなるという面もあります。設備やシステムは、ある程度ユーザビリティを意識してつくられていますから、一からすべてを教え込まなくてもマニュアルを見ながら操作すればできる人もいるからです。

新人スタッフには、まずは簡単な業務から任せていき、スモールステップで徐々に難しい業務に挑戦してもらうと良いでしょう。成功体験を積んでいけば、自信やモチベーションも上がっていきます。その積み重ねが、社員の成長につながるでしょう

 

◆仕組み化のメリット⑤顧客満足度の向上

仕組み化されていると、どこでだれが対応しても同等品質の体験価値を顧客に届けることができるようになります。例えば、マクドナルドやスターバックスのような巨大チェーンは世界各国にありますが、どのお店に行っても基本的には同じ商品、同じサービスです。これは、マクドナルドやスターバックスがブランドを定義し、それを実現するための一貫した仕組みづくりをしているからです。一定の品質を担保できることは、顧客満足度の向上につながります

 

◆仕組み化のメリット⑥スムーズな事業承継

会社を、親族や社員、あるいは社外に承継する場合、業務を仕組み化しておかなければ、後継者や譲受企業は承継・譲受後に苦労することになるでしょう。また、社長自身はいつまでたっても引継ぎができないという状況になってしまいます。そもそも、属人的な業務が多すぎると、買い手(譲受)企業も見つかりません仕組み化ができており、「社長がいなくても会社が永続できる」という状態にしておけば、オーナーチェンジするだけで引継ぎもスムーズになります。M&Aの観点からも、仕組み化は欠かせないことです。

 

次回は、仕組み化の手順と方法について解説していきます。


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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