コラム

ゼロゼロ融資後、これからが本当の不況になると危惧されている日本経済。そんな時代に、中小企業経営者は、どのように経営課題に向き合い、だれと協力関係を築いて解決していけば良いのでしょうか。本稿ではこれまでに引き続き、みずほ銀行常務執行役員、第一勧業信用組合理事長を歴任し、現在は地域金融機関の有志が集まる「ちいきん会」で代表理事を務め、開智国際大学では客員教授として教壇にも立たれている新田信行氏に、「中小企業金融と中小企業支援」をテーマにインタビューを行いました

 

◆これまでのインタビュー
【特別取材企画①】地域の未来と日本の未来のためには公助も共助も必要
【特別取材企画②】これからの時代は「人」が事業のキーになる
【特別取材企画③】今こそ未来を語り合い、新しい価値を創造しよう
【特別取材企画④】会社を存続させるためには「新しい価値創造」が欠かせない

【新田 信行(にった のぶゆき)氏 プロフィール】
1956年生まれ、千葉県出身。1981年に第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。
みずほフィナンシャルグループ与信企画部長を経て、2011年にみずほ銀行常務執行役員。
2013年から2020年まで第一勧業信用組合理事長、会長。開智国際大学客員教授。
地域金融機関の有志が集まる「ちいきん会」代表理事。

 


【絆を価値に変えていくことはできる】

 

――複数回にわたる今回の特別取材企画も、この5回目で最後になります。新田さんが発する言葉からは、ときに厳しくも温かみを感じるのですが、それはやはり長くバンカーとして金融や企業支援に携わってきたからなのでしょうか?

新田氏:これまで多くの経営者と接してきましたし、数多くの事例をみてきました。今は時代の転換期であると感じますが、変化に適応できる企業や人と、適応できない企業や人が出てきています。その差は一体何なのか。「お金を美しく使う人を見つけてくるのがバンカー」と前回お伝えしましたが、どんな時代になろうとも柔軟な思考と広い視野、強い意志、やり抜く忍耐力を経営者が持っていれば企業は成長し、発展すると思います。お金の使い方には人柄や本質が現れますから、それを見極めることもバンカーの役割です。ついつい厳しい言葉を使ってしまうこともありますが、本気で接していると情が湧くので愛情の裏返しのようなものだと捉えていただけたらと思います。

変化が激しく不確実性の高い時代には、社会課題が多く表面化します。しかし、社会課題がなかった時代などなかったわけですし、社会課題に着目してその課題解決を事業化することもできます。いわゆる「ソーシャルビジネス」です。世界16か国で42のソーシャルビジネスを展開しているボーダレス・ジャパンの代表である田口一成さんが書かれた「9割の社会問題はビジネスで解決できる」という書籍は、10代の学生から経営者、ビジネスパーソン、教職員、NPO職員など、幅広い層に読まれています。これから新しい事業を始めるにしても、多角経営化や業種転換をするにしても、とても参考になる本だと思います。

どの町にも、どの地域にも社会課題は必ずあります。町には人がいるわけで、その町で事業を展開するなら人と人との関わりが不可欠です。出会いがあり、対話があり、やがて縁となり、絆に育っていく。そして、その絆を価値に変えていく。あるいは昇華していく。その過程や循環のなかに、企業や事業があるのだと思います。町や企業の歴史は、その積み重ねで築き上げられてきたわけですし、日本は100年企業を数多く生み出してきた国です。良い企業が生まれる土壌はしっかりある。それを対話から再発見することも、今は必要なのかもしれません。

 


【中小企業がその町をつくり上げている】

 

――そんな対話の場が、ちいきん会なのですね。ちいきん会には多くの金融機関の方々が集まっていると思いますが、金融機関は今、どのような経営支援者とアライアンスを組むべきなのでしょうか?

新田氏:志を共有できるのであれば、あらゆる会社や組織、人とアライアンスを組んで良いと思います。全方向ですね。今後は、経済合理性だけの金融ではなく、本業支援も含めた長期視点の金融が欠かせなくなると感じます。中小企業が倒産してなくなってしまうと、雇用も失われることになります。町に雇用がなくなれば、人はその町を離れることになり、やがては町が廃墟になってしまう。中小企業がその町をつくり上げているという側面もありますから、そんな中小企業の持続性を高めるための活動が欠かせません

金融機関もそうですし、士業事務所などの中小企業支援に携わる人もそうですが、そもそもの存在意義に立ち返る必要があるのではないでしょうか。会社がなくなってしまうと、多くの人が困ることになりますから、中小企業経営者を支える人を増やし、アライアンスを組んで経営課題の解決に真摯に向き合うことが重要です

 


【共感資本社会が持続可能性を高める】

 

――絆を価値に変えていくというお話がありましたが、具体的にはどのように行動していけば良いと思いますか?

新田氏:「共感資本社会」という概念があります。従来の資本主義に対する限界意識から注目されている言葉で、1990年代から20年以上にわたって金融市場に携わってきた新井和宏氏が提唱していることで知られています。共感資本社会は、「共感」をベースに動く社会や経済を描いており、ヒトモノカネが経営資源や資本であるという時代から、共感が資本になる時代が来るはずだと新井氏は語っています。

企業や組織、団体、個人の資金調達の手段として、クラウドファンディングが多く活用されていますし、コミュニティ経済・リアルエコノミーが再評価されています。これらの流れは、「共感」が社会を動かす大きな力となっている証です。

例えば、浅草で芸妓さんの取り次ぎや浅草花街の地域復興、芸妓の芸能文化向上などの活動をしている東京浅草組合は、新型コロナで甚大な影響を受け、文化を絶やさないためにクラウドファンディングを行いました。目標金額は100万円だったのですが、結果、181人の支援者から534万9,555円の資金を集めることができたそうです。

資金調達の手段も多様化しており、「だれかを応援したい」「困っている人を助けたい」という人間の本能的な部分がクラウドファンディングでうまく機能していると思います

――まさに、共感から縁、絆へとつながっていく経済ですね。日ごろからだれかを応援していないと応援してもらえませんし、日ごろからだれかを助けていないと助けてもらえないと思います。日ごろの行いが改めて重要になりそうです。

 


【「人」の融通と「金」の融通】

 

――共感は人に備わった大切な能力であり、新田さんが仰るように、これからはより一層「人」が事業のキーになると感じます。人材採用にしても、事業承継・後継者探しにしても、営業活動にしても、いかに共感を生み出していくか。共感を生み出せる人を見つけ出せるかも重要ですね。

新田氏:マイナビグループさんはHRがコア事業でしょうし、まさに「人」の融通をされています。金融機関は「金」の融通という金融支援がコア事業でしたが、今後は「人」の融通を含めた本業支援に積極的に取り組んでいく必要があると思います。


※左:マイナビM&A 代表取締役 社長執行役員 西永 賢二/右:新田 信行氏

例えば、採用活動を強化するための企業組合を金融機関と連携しながらつくるのも一考です。多くの中小企業が人手不足という経営課題を抱えていますが、会社の知名度が低いがゆえにそもそも求人に応募が来ないということもあります。企業組合で採用し、そこから組合に加盟している中小企業に派遣、配属していくという方法もあるでしょう。

「本業の合間に副業で働きたい」「パラレルワーク(複業)がしたい」「リモートワークがしたい」というように、働き方も就労の仕方も雇用の仕方も在り方が変わり、多様化しています。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)をうまく活用し、人材難を解消しつつある企業もあります。今はもう「朝出社して、夕方まで働く」という均一的な働き方だけではなくなっていますから、企業側も柔軟になる必要があるのです。リモートワークが前提になれば、地方にいても海外にいても在宅で仕事ができます。

常識や固定観念を脱ぎ去り、新しい価値観で新しい価値を創造していけば、日本の未来も世界の未来も明るいのではないでしょうか

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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