コラム

ゼロゼロ融資後、これからが本当の不況になると危惧されている日本経済。そんな時代に、中小企業経営者は、どのように経営課題に向き合い、だれと協力関係を築いて解決していけば良いのでしょうか。本稿では、みずほ銀行常務執行役員、第一勧業信用組合理事長を歴任し、現在は地域金融機関の有志が集まる「ちいきん会」で代表理事を務め、開智国際大学では客員教授として教壇にも立たれている新田信行氏に、「中小企業金融と中小企業支援」をテーマにインタビューを行いました

 

【新田 信行(にった のぶゆき)氏 プロフィール】
1956年生まれ、千葉県出身。1981年に第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。
みずほフィナンシャルグループ与信企画部長を経て、2011年にみずほ銀行常務執行役員。
2013年から2020年まで第一勧業信用組合理事長、会長。開智国際大学客員教授。
地域金融機関の有志が集まる「ちいきん会」代表理事。

 


【全国金融機関が肩書きを外して対話する場】

 

――新田さんは「ちいきん会」の代表理事も務められていますが、ちいきん会の目的や活動についてお聞かせください。

新田氏:2018年に、当時金融庁長官だった遠藤俊英さんが「地域課題解決支援チーム」を金融庁につくり、その主要施策の一つとして、ちいきん会が発足します。そこには、金融機関と公務員との接点が少ないという問題意識があり、全国の金融機関の役職員と公務員が、肩書きを外して心理的安全性のもとで対話を行える場作りを行ってきました。ちいきん会は2019年3月に初開催し、現在では全国で2500人以上が繋がる場になっています。今年の3月には一般社団法人化いたしました。

ちいきん会ではこれまでに、金融機関職員×公務員のミートアップや交流イベントを開催しています。コロナ後はオンライン開催が多くなりましたが、以前は三菱地所本社ビルや城南信用金庫本店、福島民報社でリアル開催しました。その後、オンラインで各地をつないで継続しています。今後は、リアル開催を復活させていきたいと考えています。

目的は、「地域課題に基づく共感、および新たな出会いを創出し、各地域におけるイノベーションや参加者個人のモチベーション向上のきっかけになること」です。地域共創ラボや地域ダイアログを全国各地で開催しています。参加者は、財務局や町興し協力隊、地方創生に熱心な士業など幅広く、垣根を越えて集まっています。

 


【地域と日本の未来のために公助と共助を】

 

――なぜ肩書きを外し、地域の課題に関して対話する場が必要だったのでしょうか?

新田氏:各地域の未来が日本全体の未来につながっていくわけですが、未来をつくるためには自助努力だけではうまくいきません。公助も共助も必要です

公助とは、日本政策金融公庫や信用保証協会を活用した金融です。これはこれまでも必要でしたし、今後も必要でしょう。しかし自助と公助だけでもダメで、共助が必要になっています。地域内外の新しいつながりを創出することが大切です。

最近は「つながり」「絆」「コミュニティ」などの言葉がよく使われるわりには、絆が薄れていると感じます。地方を出て、都会に自由を求めた若者も都会で孤立しており、自立していません。企業内コミュニティも崩壊しつつあり、社内でも社外でも居場所がないという人もいる。新しい共助の形、絆を考えないといけない局面にあると思います。

対話をするためには肩書きが邪魔になることもありますから、ちいきん会で集まるときは肩書きや組織の看板を外して、立場を越えて地域の課題解決にフォーカスする。そんな対話のなかから、だれ予想もしなかったような解決策が見つかるかもしれない。そんなあらゆる可能性を信じて、熱意を持って行動できる人が必要だと思うのです。だから、ちいきん会のプレゼンは「棒読み禁止」になっています。

 


【今こそ、行動を変えるとき】

 

――ちいきん会の参加者は組織の中では変わり者なのかもしれませんが、新田さんは組織の在り方は今後どのように変貌していくと思いますか?

新田氏:高度成長期は、組織としてマニュアルを整備し、マニュアルどおりに手続きしていれば良かったわけで、没個性で良い時代でした。しかし今は上司の指示どおりに仕事をするだけではダメで、創造性や個性が求められています

階級を意識するアンバー組織や、実力主義・成果主義のオレンジ組織でもなかなかうまくいかない。理念や主体性、ダイバーシティを重視するグリーン組織、さらに進んで進化を続けるティール組織に、組織の在り方も変えていく必要があるでしょう。個の集合体として組織がある、という考え方です。なにかを変えようとするとき、一人だけで全部ができるわけがありません。支店長や現場の人が地域で関係をつくり、いろいろな人を巻き込んでいくのです。

だからこそ、個性を出していく。変わり者で良いのです。スポーツで言えば、「走るの速い人」「ディフェンスがうまい人」「シュートがうまい人」「マネジメントがうまい人」「コーチがうまい人」というように、個性を組み立ててチーム・組織にしていきます。個々の個性を引き出していかなくては、日本のホワイトカラーの生産性も向上しません

ちいきん会には意欲のある人が集まっていますが、すべての金融機関の意識が目覚めているわけではありません。大企業でもそうです。中小企業や地方企業でも同様でしょう。ちいきん会は肩書きを外して集まる場で、塀の外に出て草原で人と出会う場です。刺激を受けて多様な考え方を知り、自らの行動を変える。そんな人を一人でも増やして、地域の課題を解決していく。その連鎖を起こしていきたいと思います。

中小企業や地方企業の経営者の方も、ぜひ地域金融機関と連携していただきたいです。社長と同じ方向を向くキャディーのような存在が必要でしょう。そんな存在になるのは、金融機関かもしれないし、士業かもしれないし、スタートアップ・ベンチャー企業かもしれない。抱えている課題をキャディーに相談すれば、答えやそのヒントが見つかる可能性があります。相談や対話は、課題解決のための第一歩です

 

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中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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