コラム

事業をだれかに引き継ぐ方法として、「会社分割」や「事業譲渡」等があります。会社分割と事業譲渡は、どちらも事業を引き継ぐ手法ですが、それぞれに違いがあります。本稿では、会社分割と事業譲渡の基礎知識と、注意点、手順について解説します。

 


【会社分割の基礎知識】

会社分割とは、会社を事業毎に分割して引き継ぐ手法です。会社分割には、「吸収分割」と「新設分割」の2種類があります

吸収分割は、既存の会社同士で事業を引き継ぐ手法です。一方の新設分割は、新たに設立した会社に事業を引き継ぐ手法です。会社分割は、グループ内再編手法として多く用いられますが、外部承継にあたるM&Aでも用いられています。

会社分割をする際に取られる方法には、新設・吸収×分社型・分割型で計4種類あります。

「新設分割」は新しい法人に承継させる分割で、「吸収分割」は既存の法人に承継させる方法です。分社型・分割型とは、分割対価を分割元会社(譲渡企業)に割り当てるのが分社型、分割元会社(譲渡企業)の株主に割り当てるのが分割型です。会社に割り当てるか、株主に割り当てるかの違いがあります。

 


【会社分割を行う際の注意点と手順】

では、会社分割を行う際にはどのような点に注意が必要で、どのような手順があるのでしょうか。

◆会社分割を行う際の注意点

・引き継ぐ資産や負債を自由に選ぶことができない
・手続きを完了するまでに多くの時間と労力がかかる
・承継できない許認可がある

◆会社分割を行う際の一般的な手順

  1. 分割計画書の策定、分割契約書の締結
  2. 事前開示書類の準備
  3. 社員への事前通知
  4. 株主総会の特別決議
  5. 債権者保護の手続き
  6. 登記申請
  7. 事後開示書類の準備

 


【事業譲渡の基礎知識】

事業譲渡とは、事業に関連した資産を個別に選択して売買する手法です。

売り手企業(譲渡企業)側は、ノンコア事業を切り離す際や会社のスリム化(選択と集中)をする際などに行います

買い手企業(譲受企業)側は、M&Aによる事業拡大や新規事業の展開、技術や許認可、人材の獲得などを目的に行います。事業譲渡は売買する事業規模が大きいほどデメリットが大きくなることから、小規模事業の売買(スモールM&A)に適している手法といえるでしょう。

事業譲渡の“事業”には、事業に関連するすべての有形資産・無形資産が含まれます。例えば、土地や建物、在庫、組織、人材、ノウハウ、技術、システム、ブランド、顧客リスト、取引先、債務などです。

 


【事業譲渡を行う際の注意点と手順】

では、事業譲渡を行う際にはどのような点に注意が必要で、どのような手順があるのでしょうか。

◆事業譲渡を行う際の注意点

・売り手企業(譲渡企業)側と買い手企業(譲受企業)側、それぞれに税金が課される
・株主総会の特別決議が求められることがある
・債務や契約などを移転する際は、債権者や相手側の同意が求められる
・売り手企業(譲渡企業)側は、競業避止義務を課される

◆事業譲渡を行う際の一般的な手順

  1. 事業譲渡のプロジェクト立ち上げ
  2. 買い手企業(譲受企業)先探しと交渉
  3. 秘密保持契約書(NDA)の締結
  4. 基本合意契約書の締結
  5. 各種デューデリジェンスの実施
  6. 取締役会、株主総会の開催
  7. 事業譲渡契約書の締結
  8. クロージングとPMI(統合作業)

 

※PMIについては以下のコラムのご参照ください
【前編】M&Aは譲受後が重要!アフターM&Aを成功させるためのPMIとは | 株式会社マイナビM&A (mynavi.jp)
【後編】M&Aは譲受後が重要!アフターM&Aを成功させるためのPMIとは | 株式会社マイナビM&A (mynavi.jp)

 


【会社分割と事業譲渡のどちらを選ぶのが良いのか】

会社分割と事業譲渡のどちらの方法を選ぶべきかは、それぞれ以下の点に該当する場合です。

◆会社分割を選ぶケース

<売り手企業(譲渡企業)側>
・課税額をなるべく抑えたい
・手続きの時間や労力を抑えたい

<買い手企業(譲受企業)側>
・グループ会社内の承継である
・現金を用意できない
・対象の事業規模が大きい

◆事業譲渡を選ぶケース

<売り手企業(譲渡企業)側>
・譲渡資産を細かく選択したい
・すぐに現金を得たい

<買い手企業(譲受企業)側>
・譲受資産を細かく選択したい
・負債を引き継ぎたくない
・対象の事業規模が小さい

会社分割も事業譲渡も事業を引き継ぐ方法ですが、それぞれ注意点や手順が異なります。次稿では、会社分割と事業譲渡の違いについて解説します。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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