コラム

M&Aにおける最重要ポイントは、顔合わせ会談でも最終契約でもありません。「結婚はゴールではなくスタート」と言われるように、最終契約後のアフターM&Aが極めて重要になります。契約実行後に行われるM&A業務が、PMIと呼ばれる統合作業です。本稿では前編に引き続き、PMIの進め方や結果を出すPMIについて解説していきます

→ 前編はこちら

 


【PMIの進め方】

PMIは、一般的には「プロジェクトチームの組成」「現状分析と課題の洗い出し」「プランの策定」「プランの実行」「統合の実施・効果の検証」の順に進めていきます

 

PMIの進め方① 「プロジェクトチームの組成」

PMIを進めるにあたっては、プロジェクトチームの組成が必要になります。プロジェクトチームは、買収側(譲受側)の会社から派遣された人と買収された(譲渡側)会社の人の混成チームで編成することが望ましいでしょう。買収側の会社から派遣された人だけでプロジェクトチームを編成すると、会社の実態がわからない状態で進めることになるため、効率的にPMIを進めることができません。

一方、買収された会社の人だけでプロジェクトチームを編成すると、これまでの経営方法や運営方法と変わらず、効果が得られないでしょう。

また、PMIで行う内容は多岐にわたり、規模によってはプロジェクトチームも複数編成されることになるため、各チームを取りまとめるPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)を設置しておくと良いでしょう。全体像や課題を把握している人いると、波及する影響なども把握できます。

 

PMIの進め方② 「現状分析と課題の洗い出し」

PMIを実行するにあたって、現状分析を行い課題を適切に把握して、その課題に対してどのような対策が必要かを検討していきます

現状の会社のことを理解しているのは買収された会社の人です。一方、なにが課題かは、会社を第三者的な視点で見ることができる買収側の会社の人の方が適切に抜き出すことができます。

 

PMIの進め方③ 「プランの策定」

具体的なプランは、「短期」「中長期」に分けて策定する必要があります。3ヶ月程度で実施するプランは、「100日プラン」と呼ばれる短期的なプランです。中長期的な課題解決に向けて作成されるプランは、「ランディングプラン」などと呼ばれます。

100日プランは、最終契約後の約100日間で実施される課題に対しての解決策をスケジューリングした計画です。100日(3ヶ月程度)で実施する経営改革プランや、中期経営計画を策定していきます。プロジェクトチームを組成して、現場も巻き込んで実施されるものです。そのため、この100日プランでも抜本的な変革をすることが可能です。これまで実行できなかった改革を行うことができますから、会社にとってチャンスとも言えるでしょう。

ランディングプランは、100日プラン後に優先的に実行すべき課題についてスケジューリングした計画です。ランディングプランでは、デューデリジェンスの過程で発見された課題が対象となることが多いため、デューデリジェンスで検出されたことを元に検討していくことになります。例えば、組織の見直し、規定の見直し、人事の見直し、労務の見直し、経営管理の見直し、財務・経理の見直しなどが対象です。

組織や人事の見直しの際には、社内研修の実施や新たな採用計画を策定することもあります。PMIでは一定期間、外部のコンサルタントやアドバイザーを入れて一部の業務をサポートしてもらうケースもあるため、適切な専門家・専門会社に協力してもらうのも良いでしょう。

100日プラン、ランディングプランともに、洗い出された課題に対して対応策を打ち出し、どのように進めるかを具体的に決めることが重要です。担当者はだれか、いつまでに進めるかなど、アクションプランまで落とし込んでいきましょう。

 

PMIの進め方④ 「プランの実行」

アクションプランを決めたら、次はそのプランを実行していくことになります。進捗に遅れはないか、効果は出ているかなど、計画とのズレなどを適切に把握し、適宜調整する必要があります。

進捗を管理するにあたり、ガントチャートのような管理表を使用すると進捗状況が可視化・共有化されて良いでしょう。また、プランを実行していくにあたり新たに生じた課題については早急にプロジェクトチームで共有し、対応策を打ち出していきます。

 

PMIの進め方⑤ 「統合の実施・効果の検証」

プランの進捗確認は、週次あるいは月次で行っていきます。全体会議は月次でも問題ないかもしれませんが、現場レベルのプロジェクトチームは週次で会議を実施し、プランとの進捗比較や新たな課題に対して対応していく必要があるでしょう。

現場で把握された課題が他の現場にも影響が出そうであれば、全体に共有するなどしてスピーディに対応していきます。PMIでは、PDCAサイクルを適切に回していく必要があります

 


【結果を出すPMIとは】

このような手順でPMIは進められますが、結果を出すPMIとはどのようなものなのでしょうか。統合効果を最大限にするためには、経営面、意識面、業務面などのすべてのPMIに全力で取り組む覚悟が求められます

数々のM&Aを行い、それらを成功させてきた日本電産の永守重信会長は「相手先の経営陣と社員の意識改革を行うことで、買った会社は必ず結果を出す」と言います。日本電産では、「赤字は罪悪である」という意識を全社員に植え付け、日本電産流の「3Q6S」を徹底することで、赤字会社を短期間で黒字化することに成功しています。3Q6Sは、以下のような内容です。

3Q 「良い社員」「良い会社」「良い製品」

6S 「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「作法」「しつけ」

 

6Sを徹底し、工具や物品がきちんと整理されるようになると無駄な作業がなくなります。全社員が6Sを常に意識することで、作業が効率化されてコスト削減につながり、社員の士気も高まり、おのずと収益も上がっていくというわけです。その上で、経費削減や購買力の強化、営業担当者の訪問回数を増やすなど、基本的な改革を進めていきます。

「当たり前のことを当たり前に実行する」ということは、言葉にするのは簡単ですが実行するのは難しいものです。しかしそこへ向けて、経営陣や全社員の意識改革をするためには、当たり前ではない努力が必要です。そのため、PMIには覚悟が欠かせません。買収先の企業を再建する力がないと、共倒れになる可能性すらあります。

M&Aにおいて、「ポリシーが同じ会社」や「シナジーが得やすい会社」を選ぶことは、PMIをスムーズに進めるためにも重要です。買収先の企業の経営陣、社員への敬意を持つことが大切で、パーパスを伝えることで経営改善が行われていくでしょう

永守氏は、経営陣の入れ替えはせず、人員の整理にも手をつけないと言います。各社の個性と独立意識を大事にし、会社のブランドを残すことで、既存の社員たちはプライドを持って働いてくれ、意識改革も容易になるからです。敬意を持ち、相手を尊重しつつ「3Q6S」を徹底して改善すべき点は改善していく。経営者にはそれらを最後までやり抜くことが求められますが、諦めない覚悟があれば企業は短期間で再生し、良い結果を残すことができるはずです。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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