コラム

M&Aにおける最重要ポイントは、顔合わせ会談でも最終契約でもありません。「結婚はゴールではなくスタート」と言われるように、最終契約後のアフターM&Aが極めて重要になります。契約実行後に行われるM&A業務が、PMIと呼ばれる統合作業です。本稿では、PMIについて基礎から解説していきます。

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【PMI(統合作業)とは】

PMIとは、Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略で、譲受(買収)後の経営統合作業のことです。M&A成立後に統合効果を最大化するためのプロセスで、経営面、意識面、業務面で行っていきます。M&Aが成功するかどうかは、このPMIが成功するかどうかにかかっていると言えるほど重要なプロセスです。

買い手企業は、買収前になんらかのシナジー効果を期待してM&Aを行っています。シナジー効果の例としては、取引先の共有による売上アップや増益、業務を集約することによるコスト削減などが挙げられるでしょう。これらのシナジー効果を得られるかどうかは、PMI次第です。

具体的にどのようなPMIを行っていくのかは案件ごとで異なりますが、企業方針、企業文化、社員意識、経営管理・会計、人事・労務、組織、業務、システムなどがPMIの対象となります。

 

◆なぜPMIが重要なのか

M&Aでは、買い手企業と売り手企業の合意を得るために多くの時間を使います。そのため、譲受(買収)後のPMIの準備ができず、おろそかになってしまうケースがあります。M&A後に「失敗だった」という事態にならないよう、明確なビジョンや計画、方針を持ってPMIを行うようにしましょう

M&Aにおいて、PMIが最重要ポイントであると言える主な理由は、以下のとおりです。

シナジー効果の獲得
社員との軋轢解消
内部統制の構築

 

PMIが重要な理由①:シナジー効果の獲得

前述のとおり、M&Aを行う大きな理由の一つは売上アップ、増益、コスト削減などのシナジー効果を得ることです。シナジー効果を獲得するためには、PMIをうまく進め、スピーディーに完了させることが重要になります。上手に早く進めるためには、PMIの事前準備が欠かせません。

 

PMIが重要な理由②:社員との軋轢解消

M&Aは異なる会社同士が統合されるため、よく結婚に例えられます。企業方針や企業文化などが異なりますから、軋轢が生じることもあります。また、売り手企業の社員のなかには買収されたことを良く思わない人も出てくるでしょう。さらに、譲受(買収)後に社員が退職した場合、業務に支障が出てくるケースもあります

キーマン条項などで重要な業務を行う社員を引き止めることが可能ではありますが、譲受(買収)後、業務に支障が生じないよう事前に説明して理解を得ておくことが重要です。

 

PMIが重要な理由③:内部統制の構築

中小零細企業の場合、適切な稟議・決裁手順がなく、内部統制が構築されていないケースがほとんどです。内部統制の整備ができていないと、効率的に業務を行うことができません

また、稟議や決裁、業績報告、業務報告などは企業方針に合わせていく必要があり、そもそも実施したことがないケースもあります。PMIによって内部統制を構築し、ルールを可視化、共有していくことが重要になります。

 

◆統合方針の種類

PMIをスムーズに進めていくにあたり、大切なのが統合方針を決めることです。統合方針とは、シナジー効果を得るために、どのような手順で、どのような方法で進めていくかということです。

その統合方針を固めるために、デューデリジェンスで発見された懸念点・課題点などを考慮する必要があります。デューデリジェンスで発見された懸念点・課題点は、最終契約までに契約書に織り込むことが前提ではありますが、織り込めなかったことについてはPMIで補完します。PMI実行前に、発見された懸念点・課題点のなかで優先すべきことを決めていきます。

統合方針には、大きくわけて2つの種類があります。

ユナイテッド型(連邦型)
コントロール型(支配型)

 

ユナイテッド型(連邦型)

ユナイテッド型とは、譲受(買収)した会社を独立した会社として存続させる統合方針です。役員構成に大きな変更はせず、数名派遣する程度で、代表取締役の変更もないケースです。

ユナイテッド型は、買い手企業と売り手企業が同業ではなく、業績が良い場合に適用されることの多い方針でしょう。関与度合いが低いため、会社の独立性が維持され、社員の抵抗感は少なくなります。

 

コントロール型(支配型)

コントロール型とは、買い手企業が譲受(買収)した会社の経営に積極的に関与していく統合方針です。役員構成を大きく変更し、代表取締役も買い手企業から派遣して経営をコントロールします。

コントロール型は、買い手企業と売り手企業が同業で、買い手企業側が優位にある場合や、売り手企業の業績が不振な場合に適用されることが多い統合方針です。買い手企業が経営をコントロールするため、早期にシナジー効果を得られる可能性が高まります。

 

後編では、PMIの進め方や結果を出すPMIについて解説します。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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