コラム

『M&Aは譲受後が重要!アフターM&Aを成功させるためのPMIとは(前編・後編)』(*1)でお伝えしたとおり、M&Aは譲受後が重要で、PMIは慎重かつ丁寧に進めていく必要があります。そしてM&A後も会社経営は続くわけですから、中長期的なマーケティング戦略や採用戦略も忘れてはいけません。本稿では、アフターM&Aと採用戦略について解説します。

*1 参考リンク
【前編】M&Aは譲受後が重要!アフターM&Aを成功させるためのPMIとは
【後編】M&Aは譲受後が重要!アフターM&Aを成功させるためのPMIとは

 


◆ オーナーチェンジ後に人が辞めるのは避けたい

買い手(譲受)企業は、さまざまな理由からM&Aを検討します。

新規事業立ち上げの時間を短縮するため
新規事業の失敗リスクを軽減するため
人材を確保するため
ノウハウや技術を手に入れるため
本業とのシナジーを期待して、成長戦略のため

などの理由です。

 

M&Aによってオーナーチェンジした後、買い手(譲受)企業がもっとも避けたいのは「人が大量に辞めてしまうこと」や「売上が下がること」ではないでしょうか

さらに、「オーナーが代わってから労働環境や条件が悪くなった」「このままでは社内でキャリアを積んでいく将来像を描けない」という雰囲気が社内で広まれば、キーパーソンや大量の人材流出のリスクが高まってしまいます。そんな事態を避けるためにも、PMIを慎重に進めていく必要があります。

買い手(譲受)企業がまず望むのは、売上や利益を維持し、人材を維持すること。本業とのシナジーを目指すのは、その次のステップです。

 


◆ 採用戦略を立てておこう

M&A後に慌てることなく対応できるよう、採用戦略を予め立てておくと良いでしょう
採用戦略とは、企業が自社の求める人材を獲得するために立てる戦略のことです。

日本の労働人口は減少傾向にありますから、場当たり的な採用施策では一過性の成果となってしまい、継続的に採用活動を成功させることができません。理想とする人材を獲得するためには、採用戦略の設計が重要です。その採用戦略のもとになるのが、中期経営計画や事業計画です。

そのため、採用戦略は以下の手順で立てていきます。

 

手順① 中期経営計画・事業計画を把握する

既存事業をどのように拡大していくのか、新規事業をいつ開始するのか、M&A後の人員配置をどうするか、現在ある部署を統合するのか、など中長期的な企業の方針を把握していきます。

 

手順② 人員計画を策定する

中期経営計画・事業計画をもとに、どのポジションに何人の採用が必要かを決めていきます。新卒採用や中途採用だけではなく、内部調達やアウトソーシングの活用など、さまざまな方法で人材確保を検討します。

 

手順③ 採用ターゲット・人材要件定義を設定する

どのような人材を採用したいか、ターゲットと人材要件定義の設定を行います。人材要件定義とは、求める人材の人柄、価値観、学歴、職歴、経験、スキル、保有資格などのことです。MUST(必須条件)とWANT(希望条件)に分けるなど、条件の優先順位付けをすることで選考をスムーズに進めることができます。採用したい人物像を明確にすることで、選考時に確認すべきものも明確になり、入社後のミスマッチを防ぐことができます。

 

手順④ 3C分析をする

3C分析とは、以下の3つの観点からアピールポイントを探し出していくことです。

Customer(顧客、市場):求人倍率、転職顕在層の数、求職者のニーズや価値観
Company(自社):USP(Unique Selling Proposition)、過去の採用数
Competitor(競合):採用数、採用倍率など採用状況、業界ポジション、強みと弱み

採用戦略を計画する際は、顧客のことを求職者と考えます。求職者のニーズと競合他社の特徴や強み・弱みを分析し、そのうえでアピールポイントを割り出していきます

 

手順⑤ 採用手法・チャネルを決める

次は、何を使って採用するかを決めていきます。主な方法は求人広告への掲載ですが、他にもリファラル採用、転職フェア、ハローワーク、SNS、スカウト、人材紹介などの方法があります。まずは採用に必要な母集団形成を行い、関係値を高めて内定まで進めていきます。

 

手順⑥ 選考活動・面接を行う

選考を始める前には、選考フローや選考手順の設計を予め行っておきます。各選考フローに対してどの項目を確認するか明確にしておくことで、共通認識を持つことができ、より効率的な選考を行うことができます。

 

手順⑦ 内定後・入社後フォローを行う

せっかく理想的な人材を採用することができても、早期退職しては意味がありません入社後の研修や、既存社員との交流を図るなど、社内の受け入れ体制も重要です。

 


◆ 人材定着率の高い会社経営を目指す

このような採用戦略を実行する際、どのようなことがポイントになるのでしょうか。
特に重要なポイントは、「採用戦略を社内で共有すること」「採用戦略のフィードバックを行い、PDCAを回すこと」「社内の人事体制を確認すること」の3つです

採用戦略を立てたとしても、人事部などの一部の人しか把握していなければ、計画どおりに進めることが難しくなります。関係各部署に採用戦略を社内共有し、共通認識を持つようにしましょう
また、事業計画と同様に、採用戦略の効果を検証してフィードバックを行うことも大切です。採用活動の成果について振り返り、課題や反省点、改善点を明確にしておきましょう

さらに、採用活動にあたって人事や採用担当者の人員が足りているかなど、人事体制を確認することも重要です。最近は、採用活動を外部に委託する企業もあります。社員にしかできないコアな業務に集中し、それ以外はアウトソーシングすることで、社内の負荷を減らすことができます。その際は、採用だけでなく研修などについてもワンストップでサポートできるアウトソーシング先が望ましいでしょう。

人が辞めない会社経営を実現するためには、経営計画・事業計画だけでなく採用戦略も欠かせません。M&Aとあわせて、ぜひ採用戦略についても考えてみてください

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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