コラム

M&Aで多い質問5選【売り手(譲渡)企業の場合】」のコラムでお伝えしたとおり、M&Aが成立する確率は、肌感覚では1~2割ほどです。M&Aは相手があることですから、100%売却可能とは断言できません。しかし、しっかりとM&Aに向けて準備をすることで、売却できる会社にすることは可能です。本稿では、どのような会社であれば売却しやすいのかを解説します。

 


【財務状況が良い会社or悪い会社】

財務状況が良い会社は、当然ですが買い手(譲受)企業に好まれます。特に好まれるのは、売上・利益が継続かつ安定的に出ている会社です

ここでいう利益は、決算書の利益ではなく「調整後利益(実質利益)」のことです。節税を目的とした過大な役員報酬や生命保険等の利益圧縮分を利益換算した、調整後利益(実質利益)で評価されます。

借入金が少なく、自己資本比率が高い会社も好まれます。借入金は、事業拡大のためには欠かせませんから、無借金経営である必要はありません。
借入金の適正水準は、業種や会社規模によって異なりますが、一般的な適正目安としては

借入金売上高倍率(=借入金÷売上高/月)が3~4倍程度

債務償還年数(=借入金÷(経常利益+減価償却費―法人税等))が5~10年程度

とされます。

一方で、財務状況が悪く「売上は数億円以上あるものの、2~3年連続で利益が出ていない会社」「売上規模に比べて、借入金が多すぎる会社」ですと、売却するのが難しくなってきます。もちろん、赤字だから100%M&Aできないというわけではありませんが、買い手(譲受)企業に「黒字化できる、事業を伸ばせる」という確信がない限り困難と言えるでしょう。

 


【業務が組織化されている会社or属人的な会社】

中小企業のM&Aで買い手(譲受)企業が懸念するのは、「オーナー社長が抜けたとき、業績が下がってしまうこと」です。そのため、オーナー社長が抜けても業績に与える影響が少ない会社が好まれます。つまり、組織化(仕組み化)できている会社ということになります

属人的な経営体制・業務体制から脱却するためには、しっかりと権限委譲を進めることが重要です。「人が育たない」という経営課題は多いのですが、「ポジションが人を育てる」ということもありますから、ある程度任せることも必要でしょう。権限委譲を進めるためには、まずは経営幹部や幹部候補生を育成し、意思決定の一部を委譲して、経営者は最終意思決定のみを担うような体制にシフトしていくことです。

一方で、組織化できていない属人的な会社の典型は、オーナー社長にしか再現できない「長年の経験による意思決定」をしている会社です。とは言っても、中小企業で属人的な業務がない会社はほとんどありません。少なくともノウハウがマニュアル等で可視化され、ナレッジ化されている必要はありますから、暗黙知を形式知にしておくことが重要です。

 


【売れない会社はない、なんてことはない】

M&Aに関わっていると、「うちのような小さい企業が本当に売れるのか?」という質問をよくいただきます。「売れない会社はない」「赤字でも売却できる」という人もいますが、現実はそう簡単ではありません。どんな会社でも良いからM&Aの相談を受けて、着手金を取ることが目的の可能性もありますので注意が必要です。

前述のとおり、「財務状況が良く」「オーナー社長が抜けても影響が少ないように組織化できている会社」が好まれるわけですが、そのような経営状況であれば親族が継いでくれたり、だれかが引き継いでくれるものです。オーナー社長が余程ご高齢でない限り、そもそも手放す必要もないでしょう

会社や事業の売却には必ずなにか理由がありますから、完ぺきな経営状況であることは稀です。良い買い手(譲受)企業と出会えるように、「企業価値を上げてからM&Aを検討するという選択肢」でご紹介したようなバリューアップのための施策を行い、企業価値を高めておくと良いでしょう。良い意味で想定外の買い手(譲受)企業から声がかかるかもしれません。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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