コラム

自社の売却を考えたとき、「できる限り高く売りたい」と思うのは売り手(譲渡)企業の経営者として当然のことです。では、どうすれば企業価値を上げることができるのでしょうか。本稿では、企業価値を決める要因や企業価値の高め方について解説します。

 


【企業価値を決める要因とは】

企業価値を決める要因は、日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」によると以下の5つです。

一般的要因
業界要因
企業要因
株式要因
目的要因

出典:経営研究調査会研究報告第32号 企業価値評価ガイドライン|日本公認会計士協会
https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/files/2-3-32-2a-20130722.pdf

 

1つ目の「一般的要因」は、景気の動向や政治の動向などの社会全般を要因としています。2つ目の「業界要因」は、所属する業界の状況を。3つ目の「企業要因」は、収益性や財政状況など企業単体を。4つ目の「株式要因」は、株式の発行状況や株主との関係を。5つ目の「目的要因」は、何の目的で企業価値を評価するのかを要因としています。

この5つの要因のうち、3つ目の企業要因だけは1つの企業だけで企業価値を高めることができます。企業努力による変動が最も大きな部分で、5つの要因のなかでも特に考慮・配慮して経営すると企業価値を高めることにつながるでしょう。「業界全体は下火だけど、自社は強みがあり優位性が高い」となれば、その企業の価値は高まります

 


【企業価値の高め方】

企業価値を高めるためには、一般的に以下の4つの方法があります。

  1. 事業の収益性の向上
  2. 投資効率の最適化
  3. 財務状況の見直し
  4. 無形資産の把握と活用

これら4つの中でも、企業価値を高める方法として最も効果的なのが「事業の収益性の向上」です。事業の収益性の向上を実現するうえで重要になってくるのが、事業モデルの見直しでしょう。企業価値を高めるために、収益を上げられる事業モデルの検討や、無駄な支出を省いていくことが大切です。

 

企業価値を高めることは、「バリューアップ」とも呼ばれます。バリューアップの方法はさまざまですが、例としては以下のような内容があります。

経営理念、パーパス、ビジョン、ミッション等の言語化
人員の再配置
業務マニュアルの整備
業務フローの構築
コスト削減
マーケティング戦略の立案、実行
採用戦略や人材定着策の立案、実行

 

バリューアップの方法は、理念などの概念的なものから、マニュアルの整備などの各論までさまざまです。これらが整備され、しっかり運用できている企業であれば、買い手(譲受)企業もM&Aを検討しやすいでしょう。

 


【バリューアップ支援を導入してからM&Aを検討するのも一考】

M&Aアドバイザーには、案件のマッチングに特化した人もいますが、ビフォーM&A(バリューアップ)やアフターM&A(PMI)を得意とする専門家もいます。「より高く売却したい」と考えるなら、バリューアップ支援を導入し、企業価値を高めてからM&Aを検討するのも良いでしょう

バリューアップのプロセスで、企業理念やパーパスなどの言語化(暗黙知の可視化)や人員の再配置、マニュアルの整備、各種戦略の立案と実行など、多くのメリットを得ることも可能です。

「社歴の長い社員がなんとなく業務をこなしている」といった状況は、多くの中小企業で見られることです。業務が属人的になれば、社内のキーパーソンが増え、買い手(譲受)企業にとっては人的なリスクが高まることになります。マニュアルや業務フローを整備することで属人的な業務を減らし、だれでも業務を遂行できる環境をつくり出すことも、M&Aにおいては重要と言えるでしょう

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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