コラム

PPAは、上場企業であればM&Aの実施後、1年以内に行うことが必須の業務です。最近は、中小企業M&Aでも上場企業に譲渡するケースが増えてきています。PPAでは、無形資産・のれんの計上も必要です。買い手(譲受)企業である上場企業が無形資産・のれんをどのように評価するのか、知っておいて損はないでしょう。

 


【PPAとは】

PPAは、Purchase Price Allocationの略で、「取得原価の配分」と訳されます。上場企業がM&Aを実施した後(1年以内)に、売り手(譲渡)企業の資産や負債を、買い手(譲受)企業側で確定する会計処理のことです

2010年の企業結合会計基準法の改正によって、PPAは必須業務になりました。貸借対照表に載っている資産や負債だけでなく、無形資産・のれんも計上する必要があります。適切な処理が実施されていないと、会計監査で指摘を受ける可能性がありますから、注意が必要です。

PPAの目的のひとつは、のれんの源泉、構成要素を特定・識別することで、どのような要素を評価してM&Aを行ったのかを開示し、株主・投資家の投資判断に役立てることです。

 


【PPAの手順】

PPAは、デューデリジェンスの段階から開始することが多い業務です。

PPA業務の流れは、

  1. 売り手(譲渡)企業に資料提供の依頼や質問
  2. 資料等をもとに分析・評価
  3. その後、会計監査人に報告

という手順で行われます。PPA業務が本格的に行なわれるのはM&Aのクロージング後になりますが、売り手(譲渡)企業に求める資料提供や質問は、デューデリジェンスと重複する部分があるため、実際にはデューデリジェンスの段階から開始されています

資料や質問から、「譲渡対象となる会社や事業の強みの源泉はなにか」を明らかにしていきます。

 


【無形資産・のれんに含まれる対象】

では、強みの源泉となる無形資産・のれんには、どのようなものが含まれるのでしょうか

以下は、そのカテゴライズの一例です。

◆競争優位性に関連するもの

・競合他社との違い
・収益の源泉となるもの
・経営ノウハウ

◆許認可に関連するもの

・許認可、ライセンス
・ロイヤリティ

◆特許・技術に関連するもの

・特許
・優位性のある技術
・研究開発
・ソフトウェア
・知的財産

◆顧客に関連するもの

・顧客との関係性
・顧客リスト、属性
・新規顧客獲得マーケティング
・既存顧客のフォローノウハウ、離脱防止策
・受注残

◆人材に関連するもの

・組織
・資格(有資格者)
・採用ノウハウ
・研修育成ノウハウ

◆ブランドに関連するもの

・商標、商号、ロゴ、マーク等
・ブランド
・認知度

 

無形資産は、「法律上の権利」と「分離して譲渡可能な無形資産」に分類することができます

「法律上の権利」は、特定の法律に基づく権利のことで、

  • 特許権
  • 商標権
  • 意匠権
  • 著作権
  • 実用新案権
  • 商号
  • 業務上の機密事項

などが該当します。

 

「分離して譲渡可能な無形資産」は、会社や事業と切り離して売買ができ、価格を算定可能なもので、

  • 顧客リスト
  • ソフトウェア
  • 特許で保護されていない技術

などが該当します。

 


【無形資産・のれんの評価は買い手企業によって変動】

会社の価格はどのように決まるのか」のコラムでご紹介したように、企業価値を決めるためのアプローチには、「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」などがありますが、最終的には買い手(譲受)企業が決めます。無形資産・のれんの最終評価をするのも買い手(譲受)企業で、評価額は評価する人によって変わるため、絶対的な評価はありません。

個人の主観を排除し、客観的な評価を行う必要がありますが、どうしても個人差が生まれてしまうのは注意すべき点でしょう

評価にミスがあると、買い手(譲受)企業側の事業に悪影響を及ぼす可能性もあるため、やや低い評価になることもあります。のれんの評価を誤ると、のれんや企業価値を見直す「のれんの減損」が発生する場合があります。企業価値の見直しによって、上場企業の株価と株主に影響が出てしまう可能性があるからです。

上場企業へ譲渡する場合、上場企業側は無形資産・のれんの評価に神経を使っていることも、売り手(譲渡)企業として知っておくと良いでしょう

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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