コラム

「自分の会社の価格はいくらなのか? 」長年にわたり会社経営を続けてきた経営者にとって、自社の価格は気になるものでしょう。特に創業経営者にとって自分の会社は、人生そのものであり、血と汗と涙の結晶。出口戦略を描くうえで、第三者視点でどれほどの価格がつくのかを知っていくだけでも価値があります。本稿では、企業価値について解説します。

 


【企業価値とは】

企業価値とは「会社の値段」のことで、企業価値評価とはその値段を決めることです。英語では、「エンタープライズ・バリュー(Enterprise Value : EV)」と呼ばれます。企業価値評価は、M&Aでの価額交渉における判断基準として用いるものです。

企業価値と似た言葉には、「株式価値」があります。企業価値と株式価値には、どのような違いがあるのでしょうか

企業価値は、企業の魅力のことで、貨幣価格で表されます。企業が将来生み出すキャッシュフローを、現在の価値に換算した金額です。一方の株式価値は、企業価値から有利子負債を控除した部分に該当します。

 

【企業価値を決めるための3つのアプローチ方法】】

企業価値を決めるためのアプローチには、「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」の3つがあります。それぞれのメリット・デメリットは以下のとおりです。

◆コストアプローチ

コストアプローチは、対象会社の純資産をベースに評価する方法です。コストアプローチのメリットは、帳簿価格をもとに評価し、時価に修正する際も専門家の第三者の評価をもとにするため、客観性に優れた評価方法であることです。一方デメリットは、帳簿価格をもとに評価されるため、将来の収益性が反映されないことです。また、対象会社の帳簿価格をもとにするため、市場の状況などが反映されないというデメリットもあります。コストアプローチの主な手法は、簿価純資産法や時価純資産法です。

◆インカムアプローチ

インカムアプローチは、対象会社が将来獲得すると期待される利益やキャッシュフローをもとに評価する方法です。インカムアプローチのメリットは、対象会社の事業計画などをもとに評価するため、将来の収益力を評価に織り込むことができる点です。また、対象会社の事業計画には個別の事象なども含まれるため、対象会社特有の事象などを価値に反映することもできます。一方デメリットは、将来計画などをもとに評価されるため、恣意性を排除することができないことです。また、清算を前提にしている会社には用いることができません。インカムアプローチの主な手法は、DCF法や配当還元法などです。

◆マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、対象会社と類似した上場会社などを参考に、対象会社と比較することで対象会社を評価する方法です。マーケットアプローチのメリットは、市場株価や上場会社の財務情報などをもとに評価をするため、客観的に評価することです。市場の状況を反映することもできます。一方デメリットは、対象会社個別の事象などは反映することができない点です。また、新規事業を対象にすると類似会社がないケースや類似会社で異常値がある場合には利用することができません。マーケットアプローチの主な手法には、市場株価法や類似会社比較法、類似取引比較法などがあります。

 

【中小企業M&Aで知っておきたい年買法などの企業価値評価方法】

3つのアプローチ方法の他にも、M&Aでよく知られる企業価値評価の方法があります。年買法やEBITDA倍率、再調達価格法などです。

◆年買法

年買法は、時価純資産+実態営業利益の1~5年分で企業価値を算出していきます、メリットは、きちんとデューデリジェンスを行えば、買い手(譲受)企業のリスクが少ないことです。一方デメリットは、業態によっては売り手(譲渡)企業にとって不利になるケースが多いことです。また、債務超過や事業再生を必要とする企業の評価には向いていません。

◆EBITDA倍率

EBITDA倍率は、EBITDA(実態営業利益+原価償却費)×5~8年分+現預金-負債で企業価値を算出していきます。キャッシュベースで投資額を何年で回収できるか考える指標になります。

◆再調達価格法

再調達価格法は、同じ事業を開始するために必要な資金額から企業価値を算出していく評価方法です。

 

中小企業のM&Aでよく用いられる評価方法は、年買法です。営業利益の複数年分は営業権と呼ばれ、M&Aで買収したあと獲得できる予想の営業利益ということもできます。年買法は直感的に理解しやすいため、理論的な計算よりも直感で金額を決めるケースもある中小企業のM&Aにおいてよく活用されています。

 

【最終的には買い手企業が会社の価格を決める】

「これだけ長年苦労してきたのだから、経済的に報われたい」

というのが、売り手(譲渡)企業経営者の本音ではないでしょうか。しかしそんな本音があっても、相談できる相手はなかなかいないものです。「実はもう飽きたし、しんどい。そろそろ辞めたい」という相談は、顧問税理士や銀行担当者にはできません。

会社の売却を決断し、M&Aアドバイザーに相談すると「譲渡希望金額」を必ず聞かれます。譲渡希望金額とは、「会社をいくらなら売っても良いか? 」という価格です。さまざまな要素を考慮し、譲渡希望金額を算出します。あくまでも希望金額ですので、経営者が自由に設定して良いと思います

上記のような算出方法はありますが、絶対的に正しい計算式というわけではありません。業界によっても異なりますし、「不動産は所有物か賃貸か」「社員は全員引き継げるのか」「銀行からの借入金はどうするか」など、さまざまな要素から譲渡金額は導き出されます。そのため、会社の実態を把握できないと、適正な譲渡金額を算出することはできないでしょう。

そして、最終的な譲渡金額は、買い手(譲受)企業の主観で決まることも多くあります。提示された譲渡希望金額で会社を買うかどうかを決めるのは、最終的には買い手(譲受)企業だからです。もちろん、「そんな金額では売らない」と決断するのも売り手(譲渡)企業の自由です

M&Aは会社同士の結婚のようなものですから、交渉によって折り合いをつけながら建設的に決めていく姿勢も重要になります。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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