コラム

M&Aの案件でよく見かける言葉のひとつが「のれん」、あるいは「のれん代」です。のれんとはそもそもどのような意味で、M&Aとどう関連するのでしょうか。本稿では、のれんの由来や計算方法、負ののれんなどについて解説します。

 


【のれんの由来とは】

「のれん」とは、企業のブランド力や信用力、顧客との関係などを表すものです。お店の軒先に掲げられる暖簾(のれん)に由来する言葉で、M&Aでもよく使われます。

M&Aでは、企業の価格は売り手(譲渡)企業における資産・負債の価値と将来の収益予測に基づいて算定されます。将来の収益予測は、売り手(譲渡)企業と買い手(譲受)企業の協議によって決定します。その際に、売り手(譲渡)企業の時価純資産額と譲渡価格の間に生じる差額がのれん、あるいはのれん代です。

のれん=看板は、創業以来築き上げてきた信頼や、他の企業に比べた収益力の高さなど、目に見えない資産を表すもので、最近は「無形資産」とも呼ばれています。無形資産とは、特許や著作権、商標権、企業文化、企業理念、パーパス、ビジョン、ミッション、技術、ノウハウ、経営管理プロセス、業務フローなどの資産です。例えば、スターバックスの店舗マニュアルやアップルのデザインとソフトウェア、コカ・コーラの製法とブランド、マイクロソフトの研究開発と研修、グーグルのアルゴリズム、ウーバーの運転手ネットワークなども無形資産です

 


【のれん代の計算方法】

のれん代は、以下の計算式で算出することができます

のれん代=譲渡価格-売り手(譲渡)企業の時価純資産額

 

例えば、売り手(譲渡)企業の純資産(時価)が5億円で実際の譲渡価格が7億円の場合は、のれん代は2億円です。

譲渡価格の算定方法には、『会社の価格はどのように決まるのか』でご紹介したとおり、「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」の3つがあります。

コストアプローチは、売り手(譲渡)企業の純資産額をベースにしたもの。インカムアプローチは、将来獲得される収益をベースにしたもの。マーケットアプローチは、他社事例を参考にしたものです。いずれのアプローチも「絶対的な正解」はなく、これらの方法を複合的に用いて計算します。

純資産には、時価に置き換えられるものと置き換えられないものがあります。株式・債券・投資信託などの金融商品や不動産などは時価に置き換えられる純資産です。それ以外の時価に置き換えられない純資産は、簿価のまま計算します。

のれん代という無形資産がつくということは、将来的に買い手(譲受)企業に利益をもたらす可能性があります。その場合、のれん代は売り手(譲渡)企業に対する“期待値”と考えることもできるでしょう。

 


【負ののれんとは】

通常ののれんは企業の資産として認識されますが、「負ののれん」と表現される、負債として認識されるのれんもあります例えば、訴訟リスクや偶発債務(借金の保証人、手形の裏書譲渡など)などが負ののれんの発生原因です

負ののれんがあるということは、割安な取引ということになりますから、買い手(譲受)企業にとってはありがたい状況です。ただし、割安であることには理由があります。将来のリストラ計画や会計処理されていない簿外債務などが発覚したために、譲渡価格が割り引かれているというケースもあるので注意が必要です。

負ののれんの会計処理は、負債計上して償却するわけではなく、一括で全額収益計上します。通常ののれんが将来の一定期間に渡って影響を及ぼすのに対して、負ののれんは買収時における年度の収益に影響を与えますので念頭に入れておきましょう

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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