コラム

M&Aを活用する最大のメリットは、「時間を買えること」であるとされています。買い手企業視点では、時間を買えることはわかりやすいメリットでしょう。では、他にはどんなメリットがあり、一方でどんなデメリットが考えられるのでしょうか。本稿では、M&Aを活用するメリットとデメリットを、買い手企業の視点で解説していきます。

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【買い手企業からみたM&Aのメリット】

M&Aを活用するメリット① 「時間を買える」

会社経営において、中小企業がM&Aを活用する最大のメリットは「時間を買えること」です。買い手企業は、新規事業の立ち上げや既存事業の拡大にかかる時間を買って会社の成長、事業の成長にかかる時間を短縮することができます。

新規事業を立ち上げる場合、商品開発や技術開発、社員教育、マーケティングなどに対して多くの時間を要します。また、多大な時間と経費をかけたとしても、新規事業が軌道に乗るとは限りません。

しかしM&Aを活用すれば、すでに軌道に乗っている事業や会社を引き継ぐことができ、新規事業の立ち上げに要する時間の短縮が可能です。

 

M&Aを活用するメリット② 「多角経営化と事業転換の実現」

会社経営を行っていくなかで、より安定的に利益や売上を伸ばすためには、収益源の多角化が必要になってきます。近年の新型コロナウイルス感染拡大の経済への影響もあり、1つの事業に依存しない多角経営化や、時代の変化に柔軟に対応するため業種転換を考えた経営者も少なくないでしょう。

しかし前述のとおり、ゼロから新規事業を立ち上げようとすると、多くの時間と経費がかかり、さまざまなリスクが発生します。しかしM&Aを活用することで、すでに実績のある事業や会社を引き継ぎ、よりローリスクで新たな事業を始めることができます

 

M&Aを活用するメリット③ 「事業規模の拡大」

M&Aを実行することで、売り手企業が保有する事業用資産や技術、ノウハウ、既存の顧客や取引先、流通ネットワーク、不動産などの資産を得ることができます引き継いだ資産を活かすことで、買い手企業は自社の事業規模の拡大が可能です。

取引先への交渉力が高まることで、仕入れコストの削減ができるかもしれません。また、設備を有する事業であれば、稼働率を上げられる可能性もあります。さらに、ブランド力や知名度が向上することで売上アップにつながる場合もあるでしょう。既存顧客へのセルアップやクロスセルによって、マーケティングコストを削減しつつ売上や利益を上げられる可能性もあります。

 

M&Aを活用するメリット④ 「競合他社の吸収と価格競争からの脱却」

既存事業の市場が成熟期に入ると、それ以上の成長はあまり見込めず、競合他社同士によるシェア獲得競争が始まります。新規顧客を獲得するために値下げ競争となり、市場全体が疲弊してしまう場合もあります。M&Aで競合他社を取り込めば、業界シェアを拡大することもできるでしょう。値下げ競争から抜け出すことができれば、事業の持続性を保つことにもつながります。

 

M&Aを活用するメリット⑤ 「節税対策」

売り手企業が赤字を抱えていた場合、M&Aのスキーム次第では、買い手企業がその負債を引き継ぐことになります。赤字は発生した年から7年間は繰越が可能です。翌年に繰り越された赤字は「繰越欠損金」と呼ばれ、繰越欠損金は自社の黒字売上と相殺できます。マイナス分だけ法人税を削減できますので、M&Aが節税対策になるケースもあります

 


【買い手企業からみたM&Aのデメリット】

M&Aを活用するデメリット① 「粉飾リスク」

M&Aでは、会社や事業の引き継ぎが完了した後に、未払いの給与や残業代などの債務が発覚することがあります。また他に、顧客・取引先とのトラブルや環境汚染などの不利益をもたらす可能性のあるリスクをも継承してしまう可能性が考えられます。

債務やリスクを意図せず引き継いだ場合、M&Aの後に買い手企業が多額の訴訟に巻き込まれてしまう可能性がありますので、十分なデューデリジェンスを行ってリスク回避や対策をする必要があります

 

M&Aを活用するデメリット② 「期待したよりもシナジー効果がない」

買い手企業は、M&A後に生まれる「シナジー効果」に期待してM&Aを実行することが多くあります。会社や事業を掛け算することによって生まれるシナジー効果を加味して企業価値を算出し、買収金額を決定します。

しかし実際のところ、「期待していた以上に既存顧客へのクロスセル、アップセルができない」「合併によってコスト削減できると思っていたが、思うように進まない」「統合作業に時間がかかりすぎる」など、シナジー効果を発揮できないケースも発生し得るのです。そのため、M&A後のPMI(統合作業)や営業戦略、業務フローなどについてよく検討する必要があります

 

M&Aを活用するデメリット③ 「許認可を引き継げないリスク」

売り手企業が行っている事業が何らかの許認可を必要とする場合、許認可の権利を引き継げず、M&Aが失敗に終わるリスクがあります。「重大な法令違反がM&A成立後に発覚した」「必要な許認可を全て取得していなかった」など、デューデリジェンスで売り手企業側の粉飾を見落としてしまった場合に生じるリスクです。

リスクを避けるためにも、事前に許認可の有効性や、M&A成立後にその許認可を引き継げるかどうかを入念に調査しましょう

 

M&Aを活用するデメリット④ 「投資効果(ROI)が低いリスク」

買収金額が高くなりすぎた場合、統合後の利益が思ったほど出せない状況も考えられます。M&Aでは、買い手企業が売り手企業の企業価値を判定して最終的な買収金額を算出しますが、この金額は統合後のシナジー効果への期待やブランド力、所有している技術・ノウハウなどの「のれん代」をもとにして決められます。

こののれん代は、毎年減価償却する必要があります。のれん代が多額であったにも関わらず、統合後の利益が期待よりも少なければ、のれん代の償却によって利益がマイナスになってしまうのです。

また、M&Aに当てた費用が回収できない場合も考えられます。投資対効果(ROI:投資利益率のこと。投資額と、それが生む利益との比率。投資効率の指標)が低ければ、そのM&Aは失敗に終わってしまうこともあるのです。

 

M&Aを活用するデメリット⑤ 「社員のモチベーション低下リスク・退職リスク」

売り手企業の社員は、M&A成立後には買い手企業の社員になります。しかし統合後に、給与や仕事内容、働き方、待遇、福利厚生などの面で、社員の希望どおりにならないこともあります。

労働環境や人事評価制度などが一変するため、売り手企業に在籍していた社員が不満を抱き、モチベーションの低下や、退職してしまうリスクが発生するのです。また、現場では買い手企業にもとからいた社員とトラブルになるケースもあります。

M&A成立後に人材が流出してしまうと、買い手企業にとって大きな損失です。新しい環境で働く社員が不満を抱かないよう、密なヒアリングやコミュニケーションが重要です

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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