コラム
- M&A全般経営者の悩み
M&Aでのれん代を高く評価してもらう方法
M&Aにおいて、のれん代はなぜ重要なのか。のれん代は、どのように算出されるのか。そして、どうすればのれん代を高く評価してもらえるのかについて解説します。M&Aの価格交渉や戦略策定に役立つ知識を身につけ、M&A戦略に活用していただければと思います。
参考コラム:M&Aでよく耳にする「のれん代」とは
目次
- のれん代はなぜ重要なのか
- 企業価値算定の手法とのれん代の関係
- DCF法による企業価値算定とのれん代の算出例
- 時価純資産法による企業価値算定とのれん代の算出例
- のれん代を高く評価してもらうためのポイント
- まとめ:のれん代と企業価値算定の理解と活用
1、のれん代はなぜ重要なのか
のれん代とは、事業譲渡や合併などで会社が他社の事業や株式を取得する際に、取得価額と取得した資産の時価の差額のことです。のれん代は、取得した会社のブランドや顧客基盤、人材や技術など、有形資産には表れない価値を反映しています。
のれん代は、会社の事業戦略や成長性を評価する上で重要な指標です。のれん代が高いということは、取得した会社に高い将来収益力が期待されているということです。逆に、のれん代が低いということは、取得した会社に対して過大な価格を支払ったということを意味します。
また、のれん代は、会社の財務状況や業績にも影響を与えます。のれん代は、取得した会社の資産の一部として計上されますが、減価償却は行われません。その代わり、定期的に減損テストを行い、のれん代の回収可能性を判断します。もし、のれん代の回収可能額が帳簿価額を下回った場合は、減損損失を計上する必要があります。このように、のれん代は、会社の資産や純資産の増減や、利益やキャッシュフローの変動に影響を及ぼします。
このように、のれん代は、会社の事業価値や財務状況を分析する上で、重要な役割を果たします。しかし、のれん代は、取得価額や取得した資産の時価に基づいて算出されるため、主観的な要素が多く含まれます。そのため、のれん代の算出方法や評価方法について、正しく理解することが必要です。
2、企業価値算定の手法とのれん代の関係
企業価値とは、会社の将来の収益力や成長性を現在価値に割り戻したものです。企業価値を算定する手法には、主に以下の3つがあります。
DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法):
会社の将来のフリーキャッシュフローを割引率で現在価値に換算する方法
時価純資産法(マーケット・バリュー・オブ・エクイティ法):
会社の株式の時価総額に負債を加えたものから、有形資産の時価を差し引いたもの
PER法(株価収益率法):
会社の株価を1株当たりの純利益で割ったものに発行済み株式数を掛けたもの
これらの手法は、それぞれ異なる観点から企業価値を評価しますが、のれん代との関係も異なります。
DCF法では、のれん代は、企業価値の一部として算出されます。DCF法では、会社の将来の収益力や成長性を反映したフリーキャッシュフローを現在価値に換算するため、のれん代に相当する価値も含まれます。そのため、DCF法で算出した企業価値から有形資産の時価を差し引くと、のれん代が求められます。
時価純資産法では、のれん代は、企業価値の差額として算出されます。時価純資産法では、会社の株式の時価総額に負債を加えたものから、有形資産の時価を差し引くことで、企業価値を評価します。このとき、差し引かれる有形資産の時価は、取得した会社の資産の時価と同じです。そのため、時価純資産法で算出した企業価値と取得価額の差額が、のれん代になります。
PER法では、のれん代は、企業価値に影響を与えません。PER法では、会社の株価を1株当たりの純利益で割ったものに発行済み株式数を掛けることで、企業価値を評価します。このとき、純利益は、のれん代の減損損失などの非現金項目を除いたものです。そのため、のれん代は、企業価値に影響を与えません。
このように、企業価値算定の手法によって、のれん代との関係は異なります。そのため、企業価値とのれん代を比較する際には、算定方法や前提条件に注意する必要があるでしょう。
3、DCF法による企業価値算定とのれん代の算出例
DCF法による企業価値算定とのれん代の算出例を見てみましょう。以下のような仮定のもとで、企業Aが企業Bの全株式を取得する場合を考えます。
企業Aの発行済み株式数:1000万株
企業Aの株価:1000円
企業Aの負債:5000万円
企業Bの発行済み株式数:500万株
企業Bの株価:500円
企業Bの負債:1000万円
企業Bの有形資産の時価:2000万円
企業Bのフリーキャッシュフロー:500万円(一定)
割引率:10%
このとき、DCF法による企業Bの企業価値は、以下のように求められます。
企業Bの企業価値 = 企業Bのフリーキャッシュフロー / 割引率 = 500万円 / 0.1 =5000万円
企業Bの企業価値が5000万円であるとすると、企業Aが企業Bの全株式を取得するためには、以下のような取得価額を支払う必要があります。
取得価額 =企業Bの企業価値+企業Bの負債 =5000万円+1000万円 =6000万円
このとき、企業Bの有形資産の時価は2000万円であるため、のれん代は以下のように求められます。
のれん代 =取得価額-企業Bの有形資産の時価 =6000万円-2000万円 =4000万円
この例からわかるように、DCF法による企業価値算定では、のれん代は、会社の将来の収益力や成長性を反映した価値として算出されます。しかしDCF法には、以下のような課題もあります。
- フリーキャッシュフローの予測には、不確実性や主観性が含まれる
- 引率の決定には、市場のリスクや資本コストの推定が必要である
- 無限期にわたるフリーキャッシュフローの計算には、ターミナルバリューの算定が必要である
このように、DCF法による企業価値算定とのれん代の算出には、さまざまな要素が関係します。そのためDCF法を適用する際には、各要素の妥当性や合理性を検証することが重要です。
4、時価純資産法による企業価値算定とのれん代の算出例
次に、時価純資産法による企業価値算定とのれん代の算出例を見てみましょう。以下のような仮定のもとで、企業Aが企業Bの全株式を取得する場合を考えます。
企業Aの発行済み株式数:1000万株
企業Aの株価:1000円
企業Aの負債:5000万円
企業Bの発行済み株式数:500万株
企業Bの株価:500円
企業Bの負債:1000万円
企業Bの有形資産の時価:2000万円
このとき、時価純資産法による企業Bの企業価値は、以下のように求められます。
企業Bの企業価値 =企業Bの株式の時価総額+企業Bの負債-企業Bの有形資産の時価 =企業Bの発行済み株式数企業Bの株価+企業Bの負債-企業Bの有形資産の時価 =500万株×500円+1000万円-2000万円 =2500万円+1000万円-2000万円 =1500万円
企業Bの企業価値が1500万円であるとすると、企業Aが企業Bの全株式を取得するためには、以下のような取得価額を支払う必要があります。
取得価額 =企業Bの株式の時価総額+企業Bの負債 =企業Bの発行済み株式数企業Bの株価+企業Bの負債 =500万株×500円+1000万円 =3500万円
このとき、企業Bの有形資産の時価は2000万円であるため、のれん代は以下のように求められます。
のれん代 =取得価額-企業Bの有形資産の時価 =3500万円-2000万円 =1500万円
この例からわかるように、時価純資産法による企業価値算定では、のれん代は、会社の株式の時価総額と有形資産の時価の差額として算出されます。しかし時価純資産法には、以下のような課題もあります。
- 会社の株式の時価総額は、市場の需給や投資家の心理などに左右されるため、安定性や客観性に欠ける
- 会社の有形資産の時価は、不動産鑑定や資産評価などの専門的な知識や技術が必要である
- 会社の無形資産や将来の収益力や成長性などは、時価純資産法では反映されない
このように、時価純資産法による企業価値算定とのれん代の算出には、さまざまな要素が関係します。そのため時価純資産法を適用する際には、各要素の妥当性や合理性を検証することが重要です。
5、のれん代を高く評価してもらうためのポイント
のれん代を高く評価してもらうためのポイントは、以下のようなものがあります。
- 自社の強みや独自性を明確にアピールする。買い手企業にとって魅力的な無形資産を持っていることを示すことで、のれん代を高めることができます。
- 自社の財務状況や業績を整理し、正確に伝える。買い手企業は、買収対象の将来の収益性やリスクを評価するために、財務情報や事業計画を重視します。そのため、自社の状況を適切に開示することが重要です。
- 複数の買い手候補を集める。競争入札を行うことで、買い手企業同士の競争を促し、のれん代を引き上げることができます。また、買い手のニーズに合わせて、自社の価値を訴求することも効果的です。
のれん代はM&Aにおける無形資産の価値を表すもので、自社の強みや独自性をアピールし、財務状況や業績を整理し、複数の買い手候補を集めることで、高く評価してもらうことができるでしょう。
まとめ:のれん代と企業価値算定の理解と活用
本稿では、のれん代と企業価値算定の関係について解説しました。
- のれん代とは、M&Aにおいて、取得価額と取得した企業の純資産の時価の差額のことで、無形資産の価値を表す。
- 企業価値算定の手法には、DCF法、時価純資産法、PER法などがあり、それぞれのれん代との関係が異なる。
- DCF法では、のれん代は、会社の将来の収益力や成長性を反映した価値として算出される。
- 時価純資産法では、のれん代は、会社の株式の時価総額と有形資産の時価の差額として算出される。
- PER法では、のれん代は、企業価値に影響を与えない。
- のれん代を高く評価してもらうためには、自社の強みや独自性を明確にアピールし、財務状況や業績を整理し、複数の買い手候補を集めることが重要である。
以上のように、のれん代と企業価値算定は、M&Aにおいて重要な概念であり、正しく理解することが必要です。M&Aの価格交渉や戦略策定に役立てることができるでしょう。