コラム

M&Aを検討する中小企業オーナーの方が抱く懸念の大半は、「会社を売却した後、社員たちはどうなるのか?」というものです。長年、苦楽を共にしてきた社員の方もいらっしゃるでしょう。オーナー社長として、懸念を抱くのも当然です。本稿では、M&Aが社員へ与える影響についてまとめました。

 


【M&A後も社員は働き続けることができるのか?】

中小企業オーナーの方が気がかりなのは、「M&A後も、社員・従業員たちは働き続けることができるのだろうか?」という点でしょう。最終的には、買い手(譲受)企業の意向で決まりますが、中小企業におけるM&Aの多くは、社員・従業員の雇用は維持されますケースによっては、給与が上がったり、より良い処遇を受けることも多々あります

なぜ、雇用が維持されることが一般的なのでしょうか?

その理由の一つは、買い手(譲受)企業は、売り手(譲渡)企業よりも会社の規模が大きいことが多いからです。事業規模が大きい会社の方が、多くの場合、給与水準が高く、また売り手(譲渡)企業にいた社員・従業員の給与形態は、買い手(譲受)企業の給与形態に合わせることが多いため結果的に給与が高くなります。

もう一つの理由は、ノウハウや技術を持っている社員・従業員は、優遇されることが多いからです。買い手(譲受)企業がノウハウや技術を持った人材を獲得することを目的にM&Aをしていれば、即戦力として雇用が継続され、さらに優遇されます。

 


【社員から見たM&Aのメリット】

前述のとおり、雇用維持を前提に交渉が行われるケースが多い中小企業のM&Aですが、社員・従業員から見たM&Aのメリットには、どのようなことがあるのでしょうか?

◆処遇が良くなる可能性がある

M&Aによって、給与などの処遇が改善される可能性があります。同じグループ企業の中で、雇用条件が大きく異なると、条件を合わせていくことが一般的だからです。

◆仕事内容やキャリアの幅が広がる

買い手(譲受)企業が異なる業種であれば、新たな仕事にチャレンジできる可能性が広がります。異なる業種でなかったとしても、事業規模が大きい会社であれば、今までとは異なる業務を経験できる可能性もあるでしょう。
また、M&A前とは異なる人と関わる機会が増え、さまざまな考え方や仕事の仕方などを知ることも増えるでしょう。経験を積めば、キャリアにも幅が出てきます。

◆大手・中堅企業のグループ社員になれる

買い手(譲受)企業が大手企業や中堅企業であれば、その企業のグループ社員として働くことになります。大手企業の社員であれば、住宅ローンの審査等、世間的に優遇される場面もあるでしょう。

 


【社員から見たM&Aのデメリット】

では一方で、社員・従業員から見たM&Aのデメリットには、どのようなことがあるのでしょうか?

◆勤務地が変更される可能性がある

M&A後、労働条件が悪くなる典型的な例には「勤務地が変更され、通勤時間が増えること」があります。給与などの金銭的な面は維持、または優遇・改善されることが多いのですが、勤務地に関しては交渉の余地なく変更されることがあります。

◆元オーナー社長との接点がなくなる

「元オーナー社長との信頼関係があるから仕事を続けられた」という社員・従業員の方も少なくありません。その場合、「朝、出社すると元オーナー社長とは別の人が職場にいること」に違和感を覚える方もいらっしゃいます。家族のような人間関係がオーナー社長と社員・従業員間で残っている中小企業もまだまだ多くありますから、名残惜しくなることもあるでしょう。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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