コラム

買い手企業(譲受企業)候補を探していると、「PEファンド」への売却・譲渡という選択肢が浮上することがあります。ファンドと聞くと、ハゲタカや乗っ取りなどのネガティブな連想をしてしまう経営者の方も多いでしょう。本稿では、PEファンドの基礎知識やPEファンドに会社や事業を売却・譲渡するメリットとデメリットについて解説します。

 


【PEファンドとは】

PEファンドのPEは、「プライベート・エクイティ(非上場株式)」のことで、PEファンドは「非上場会社専門のファンド」です。PEファンドは非上場企業を買収して、その企業価値を高め、利益を生み出すことで利益を投資家に還元します。「事業投資ファンド」と表現することもできるでしょう。投資対象は、株式や不動産など、一般的に「投資」と捉えられるもの全般です。

PEファンドは、成長余地があるものの、なんらかの要因で潜在的な企業価値を活かしきれていない企業に投資をし、企業価値を高めてからIPOや他社へのM&A等の出口戦略を描き、リターンの獲得を目指すビジネスです。一般的には、3~5年ほどで出口戦略を描き、それを前提に企業買収を行います。対象となる企業は主に、

  • 大企業の子会社/非主流部門
  • オーナー系中堅企業

などで、対象企業の株式を引き受ける形で投資を実行します。

 


【PEファンドによる企業買収にネガティブイメージが付きまとう理由】

PEファンドによる企業買収が注目されるようになったのは、1998年のアメリカ・リップルウッドによる日本長期信用銀行の買収の頃です。当時、「ハゲタカ」と揶揄され、非難される傾向がありました。この一件が、PEファンドによる企業買収にネガティブイメージが付きまとう理由でしょう。

現在でもマスコミやテレビドラマなどの影響もあって、ネガティブなイメージを持たれるケースがあります。PEファンドによる企業買収に限らず、M&A全般的にそうかもしれません。しかし、PEファンドによる企業買収は、なにも悪いことばかりではありません。

 


【LBOとは】

PEファンドに会社や事業を売却・譲渡するメリットとデメリットの話に移る前に、PEファンドがどのように利益を生み出しているのかも解説しておきます。

PEファンドは、買収した企業の成長を目指して改革などを進めてわけですが、会社を成長させることができたとしても、配当だけでは投資家に還元するだけのキャッシュを生み出すことはできません。そのためPEファンドは、買った株式を短期的に売却することで投資額以上のキャッシュを手に入れようと計画します。その主な方法は、

  • 買収した会社をIPO(上場)させ、株式市場で売り出す
  • 買収した会社をより高値で買ってくれる会社を見つけ、売却・譲渡する

の2つです。2つ目の他社への売却・譲渡は、「LBO(レバレッジド・バイアウト)」と呼ばれる企業買収の手法のひとつです。

LBOでは、買収した企業の資産価値や、将来的な収益性を担保にして金融機関から融資を受けるなどして買収資金を捻出します。少ない資金で、相対的に大きな資本の企業を買収することができるのがLBOの特徴です。そして買収後は、企業の資産の売却や事業の改善などを行い、キャッシュフローを増加させることで負債を返済して財務改善を図ります。

本来、LBOは金融機関が大きな利益を生み出せる新規投資先を獲得するために開発された手法と言われています。そのため、信用取引としての性格が強い方法です。

 


【PEファンドに会社や事業を売却するメリット】

では、PEファンドに会社や事業を売却・譲渡するメリットには、どのようなことがあるのでしょうか。

まず挙げられるメリットは、「高値で売却・譲渡できる可能性が高まること」です。これが最大のメリットと言っても良いかもしれません。

PEファンドは、投資対象が良い会社であれば、高値でも買収してくれる可能性があります。PEファンドは、事業を営みたいわけではなく、あくまでも買収して利益を出すことが目的です。短期的な利益が得るためなら、大規模なリストラもノンコア事業の廃止も躊躇しません。PEファンドは低リスクで利益を出すノウハウを持っていますから、良い会社の買収チャンスを逃すくらいなら、高値でも買収する可能性があるというわけです。

もうひとつのメリットは、「少数株主として会社に残れる可能性があること」です。中小企業M&Aの場合、元オーナーがM&A後も少数株主として会社に残ることは稀なケースですが、PEファンドへの売却・譲渡の場合は、一部株式を継続的に持っていることを認めてくれる場合もあります

なぜ少数株主として残れるかというと、一般的にPEファンドには経営ノウハウがないため、元オーナーに会社に残ってもらえるとむしろ助かるからです。

 


【PEファンドに会社や事業を売却するデメリット】

一方で、PEファンドに会社や事業を売却・譲渡するデメリットには、どのようなことがあるのでしょうか。

PEファンドによる企業買収にネガティブなイメージが付きまとうように、「会社が成長するどころか、ガタガタになるリスクがあること」がそのデメリット(リスク)です。なぜそのようなことが起こるかというと、PEファンドは会社を売買するプロではあるものの、会社経営のプロではない場合が多いからです。

PEファンドによる企業買収では一般的に、M&A後に元オーナーには退任してもらうか会長職などで残ってもらい、代わりに大手企業等の管理職や、経営コンサルタント、社内の番頭格の人などが新社長に就任することになります。いずれの人材が新社長になったとしても、結局のところ雇われる立場の人(会社員)です。中小企業の経営は、経営者・創業者の器や人柄、才覚によるところが大きく、新社長に経営の知識や経験があっても上手くいかないケースが多くあります。

素晴らしい経歴を持つ大手企業の元管理職の人を高い給与で雇うケースもありますが、必ずしも上手くいくとは限りません。なぜなら、大組織の元会社員であって、中小企業の経営経験はないからです。経営コンサルタントが新社長に就任したとしても、アドバイスや分析と実際の会社経営は別のスキルです。新社長の適任者を見つけられなければ、「経営者不在の会社」ができることになり、その先は衰退しかありません。

会社がガタガタになる兆候があると、「大量退職のリスク」も高まることになります。M&A自体、社員にとっては大きなストレスです。PEファンドによる買収であれば、なおさらでしょう。きちんとケアしないと、大量退職を招くことになります。

他にも、短期的な株価上昇がPEファンドの目的であることもリスクをはらみます。経営判断の基準が、「株価が上がるか下がるか」になりますから、短期的な株価上昇に直結しない新規事業や、社内親睦のための予算はすべて却下されるでしょう。PEファンドによる企業買収で、会社の無駄が削ぎ落とされるというメリットもありますが、社員たちにとってはあまり気持ちの良いことではありません。

そのため、PEファンドへの売却・譲渡は、社内に混乱を巻き起こすことになり得ます。結果、社員から恨まれることにつながるリスクが最大のデメリットと言っても良いでしょう。恨みを買いたくない場合は、PEファンドへの売却・譲渡は慎重になった方が賢明です。もしもPEファンドから売却の話が来たときは、信頼できるM&Aアドバイザー・M&A仲介会社に一度相談してみてください

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

コラム一覧へ戻る