コラム

「会社分割」と「事業譲渡」は、どちらも事業を引き継ぐ手法です。しかしそれぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。本稿では、会社分割と事業譲渡の違いについて解説します

 


【会社分割と事業譲渡の違い「会社法上の組織再編行為」】

会社分割は、会社法上の「組織再編行為」に該当します。組織再編行為に該当する手法は、会社分割の他に、合併や株式移転、株式交換があります。一方で、事業譲渡は事業資産を個別に取引する行為ですので、会社法の組織再編には該当しません

 


【会社分割と事業譲渡の違い「承継対象と契約手続き」】

会社分割と事業譲渡では、承継対象と契約手続きに違いがあります。会社分割の場合、分割する事業を包括的に承継することになります。そのため、分割内容に関して個別に契約する必要はありません

一方で事業譲渡の場合は、承継対象となる事業資産は個別に取引されますので、契約関係も個別に行う必要があります。そのため、承継対象が多岐にわたる場合は契約手続きも煩雑になり、時間と労力を要することになります

 


【会社分割と事業譲渡の違い「債権者保護と事前承諾」】

会社分割と事業譲渡では、債権者への対応にも違いがあります。会社分割は事業資産を包括的に承継するため、債務も引き継ぐことになります。そのため、債権者保護手続きが必要です。しかし、債権者から個別に事前承諾を得る必要はありません。

一方で事業譲渡の場合は、債権者から個別に同意を得るので、債権者保護手続きの必要はありません。しかし、債権者から個別に事前承諾を得る必要があります。債権者が多いほど、事業譲渡は承諾を得る手続きの負担が大きいと言えます。

 


【会社分割と事業譲渡の違い「許認可」】

許認可の引き継ぎに注意が必要です。会社分割の場合は、一部許認可を除いて原則として引き継がれるため、買い手企業(譲受企業)側が許認可を取り直す必要はありません

一方で事業譲渡の場合は、許認可が引き継がれませんので、買い手企業(譲受企業)側は許認可を取得しておく必要があります。事業譲渡の際は、あらかじめ許認可の取得スケジュールを確認しておかなければ、譲受後に事業を開始できない事態になりかねません。

 


【会社分割と事業譲渡の違い「簿外債務」】

会社分割と事業譲渡、どちらの手法を用いるかを決める際は、簿外債務リスクを考慮する必要があるでしょう。簿外債務とは、帳簿に記載がない隠れ債務のことです。会社分割の場合、この簿外債務も引き継いでしまう可能性があります

一方で事業譲渡の場合は、原則として債務を引き継がないため、簿外債務を引き継ぐリスクはありません

買い手企業(譲受企業)側は、十分なデューデリジェンスを行えるのであれば会社分割でも問題ありませんが、十分なデューデリジェンスができない場合は事業譲渡を選んだ方がリスクを減らせるでしょう。

 


【会社分割と事業譲渡の違い「社員への対応」】

会社分割の場合は、労働契約承継法に基づいて手続きを行う必要があります。例えば、労働組合と社員への通知、労働組合や社員との協議、社員からの異議申出対応などです。

一方で事業譲渡の場合は、当該社員へ個別に通知し、雇用条件や待遇等に関して同意を得る必要があります

 


【会社分割と事業譲渡の違い「取引先への対応」】

社員への対応だけでなく、取引先への対応にも違いがあります。会社分割は包括的な承継なので、取引先との契約も引き継がれることになります

一方で事業譲渡の場合は、買い手企業(譲受企業)側が取引先との契約を再度行う必要があります。引き継がれる取引先数が多いほど、手続きに時間と労力を要することになります。

 


【会社分割と事業譲渡の違い「各種税」】

会社分割と事業譲渡では、「登録免許税」「不動産取得税」「消費税」などの各種税についても違いがあります。

登記の際には登録免許税を支払う必要がありますが、会社分割の場合は一定の要件を満たすと登録免許税の軽減措置を受けることができます。一方で事業譲渡の場合は、登録免許税の軽減措置を受けることはできません。登録免許税額は資本金の増加額が大きくなるほど負担も大きくなるため、規模の大きい会社分割を行う際は注意が必要です。

土地や建物の引き継ぎが伴う場合は、不動産取得税を支払う必要があります。不動産取得税も登録免許税と同じく、会社分割の場合は一定の要件を満たすと軽減措置が受けることができます。一方で事業譲渡の場合は、軽減措置がありません。土地や建物の評価額が高いほど不動産取得税も高くなるため、会社分割か事業譲渡かを検討する際は、軽減措置の有無を考慮する必要があるでしょう。

また会社分割は、組織再編行為に該当するため消費税は課せられません。一方で事業譲渡の場合は、個別資産の取引(売買行為)のため消費税が課せられます。ただし、消費税が課せられる資産と課せられない資産があり、課税対象になるのは以下の資産です。

有形固定資産(土地以外)
無形固定資産
棚卸資産
のれん

 


【会社分割と事業譲渡の違い「競業避止義務」】

競業避止義務とは、売り手企業(譲渡企業)側が譲渡した事業と同種の事業を営んではならない取り決めのことです。譲受後にすぐに同種の事業で起業されてしまうと、競合他社を増やすことになります。この競業避止義務を結ぶと、売り手企業(譲渡企業)側は同地域で一定期間同種の事業ができなくなり、違反した場合は賠償を請求されることもあります。

会社分割の場合、必ずしも競業避止義務を取り決める必要はありませんが、事業譲渡の場合は交渉次第では売り手企業(譲渡企業)側に競業避止義務が課されることがあります

このように、会社分割と事業譲渡にはそれぞれに特徴があります。どちらの手法が適切か、一度専門家の意見を聞いてみるのも良いでしょう

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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