コラム

野心や成長意欲の溢れるオーナー経営者であれば、一度くらいは海外進出を目指したことがあるかもしれません。しかし経営資源には限りがあり、無限とはいきません。おのずと、選択と集中が必要になります。本稿では、選択と集中が功を奏したサイトM&Aの成功事例をご紹介します

 


【海外進出を検討していた中小企業オーナー】

今回取材したA社長は、都内でインターネット広告運用やホームページ制作、オウンドメディア運営などの事業を展開しています。30代の若いオーナー社長ですが、着実に事業を拡大している方です。そんなA社長から「コロナが明けたら、インドネシアに視察に行ってみようと思っている。海外でなにか新しい事業をしたい」という相談がありました。

私が「新しい事業は、具体的にはどんな事業でしょうか。日本でやっているインターネット広告事業なのか、不動産事業なのか、一次産業なのか、飲食事業なのか、小売業なのか。新しい事業をいつまでに軌道に乗せたいですか? 予算や担当者はどうでしょうか」と確認すると、「まだなにも決めてない。とりあえず、なにか新しいことをできれば面白いなって思って。日本の事業は利益も結構出ているから、今のうちに新しいことを始めたい」という回答でした。

私から「海外進出なんてしたら、利益が一瞬でなくなります。もっと具体的に真剣に考えた方が良いです。早々に撤退することになりそうです」と警告すると、新規事業担当者と社外取締役を紹介するので、一度打ち合わせしたいということになりました。

 


【遠くの海外進出よりも、近くのサイトM&A】

打ち合わせでは、A社長から「日本の事業では、月に2000万円ほどの利益が出ている。この資金を活かしてインドネシアに進出したい。興味があるのは、不動産事業か飲食事業。インドネシアで会社をつくって物件を買って、立地によって住居か飲食店か決めていくイメージ」と、やや具体化したインドネシア進出の計画を伝えられました。

私から「インドネシアは、法人設立だけで100万円くらいのコストがかかります。申請して登記が完了するのに、期間は約6カ月です。土地の保有はインドネシア人個人しか原則できないので、土地を長期で借りて建物を建てるか、すでにある物件を借りるかです。住居はエリアによっては足りていないので、まだまだニーズはあると思います。ただ、インドネシアと言っても広いので、国単位ではなく都市単位でマーケットをみないとうまくいきません。飲食店も、ラーメン店や日本食レストランは、ジャカルタにはすでにたくさんあります」と伝えると、A社長から「とりあえず、視察できそうな先や店舗M&Aの情報、不動産の物件情報があればほしい。段階的でも、1億円くらいを投資したい」とリクエストがありました。

その後、A社長が席を外すと、新規事業担当者と社外取締役の方から本音を聞くことができました。

A社長は事業意欲旺盛で、海外進出の夢をずっと持っています。しかし今はまだ、海外に目を向ける時期ではないと会社としては考えています。確かに利益は出ていますが、人の入れ替わりが激しく、会社に人材が定着していません。優秀な人ほど独立してしまうので、既存事業とシナジーのありそうなサイトをM&Aで買って、独立しそうな人に新規事業を任せるのが良いんじゃないかと、役員会などで話し合っているところなのです

と、新規事業担当者は仰います。

 


【人材流出も防いだサイトM&A】

私は新規事業担当者と社外取締役の方に、「海外進出は、将来的に検討すればよいのではないでしょうか。まずは足元の人材の定着という経営課題をある程度解消した方がよいと思います。すでにサイトM&Aの案件が進んでいるのであれば、そちらを優先してください」と伝え、海外進出の話はペンディングにしました。

その後、A社長の会社はECサイトを5000万円ほどでM&Aし、既存のオウンドメディア事業の(辞めそうだった)担当者を新規事業の責任者にして、EC事業をスタートさせました。オウンドメディア事業で、すでに多くの見込客リストを取得していましたので、M&AしたECサイトの商品を掛け合わせることで売上を伸ばしています。もちろん、退職しそうだった担当者は仕事を続けてくれており、モチベーションも高いようです

海外進出にも一定の価値はあったかもしれませんが、より成功の確度が高く、人材定着など投資対効果の高いことに選択と集中ができたよい成功事例ではないでしょうか。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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