コラム

スタートアップ・ベンチャー企業の間でも大企業の間でも、「web3」という言葉が頻繁に使われるようになりました。玉石混交の情報が溢れており、「猫も杓子もweb3」といった状況ですが、今後数年でweb3企業のM&A、あるいはクロスボーダーM&Aが増加する可能性があります

 


【web3とは】

「web3」という言葉が、多くのメディア、SNSでもよく使われています。web3は「Web3」「Web3.0」と表記されることもあり、読み方は「ウェブスリー」「ウェブさん」「ウェブサンテンゼロ」などです。web3は現時点では、「ブロックチェーンをベースにした分散型(非中央集権)インターネットサービス」と仮定義されています

なぜ仮定義なのかというと、web3はまだ始まったばかりだからです。web3がしっかりと定義されるのは、web4やweb5の時代が来てからでしょう。今はweb3に関するさまざまな主張がありますが、どの主張もある意味では正しく、どれが正解ということもありません。

 


【web1・web2とは】

現時点でのweb3を理解しておくためには、web1とweb2について知る必要があるでしょう。

web1は、1990年代後半頃からの時代とされています。象徴的な商品は、Windows95です。PCが中小企業や個人に普及し始めた頃で、web1時代は、「ユーザーはRead(読むだけ)。企業や事業者はCreate & Make Money(つくって稼ぐ)」という関係性でした

web2は、2000年代頃からの時代とされています。象徴的な企業は、アメリカのGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)です。SNSが生まれた頃で、フェイスブックやミクシィ、LINE、楽天、GMOなどの今では身近なIT企業が数多く誕生しました。web2の時代は、「ユーザーは読むだけではなくCreate(つくる)。企業や事業者はつくるだけでなくプラットフォーマーとなり、Control & Make Money(管理して稼ぐ)」という関係性です。web1・web2では、「ユーザーと企業」といった二項対立が当たり前でした。

では、web3はいつ頃からの時代なのでしょうか。一説では、2020年頃からの時代とされますが、「ビットコインが誕生した2009年がweb3元年である」という主張もあります。web3の時代は、「ユーザーはCreate(つくる)だけでなく、Control & Make Money(管理して稼ぐ)」こともします。つまり、ユーザーと企業・事業者・プラットフォーマーの境界がなくなり、よりフラットな関係になります。

 


【web3という概念が誕生した背景】

なぜこの時代に、web3は生まれたのでしょうか。

web2の頃、GAFAMをはじめとするいわゆる「テック・ジャイアント」は、捉え方によっては一国よりも大きな影響力を持つようになりました。SNSは、TVや新聞、ラジオのようなオールドメディアに対するアンチテーゼとして生まれた面があります。ところが、やがてSNSもオールドメディア化し、力を持つようになっていきました。そんなテック・ジャイアント≒web2企業に対するアンチテーゼが、web3誕生の背景にはあるともいえるでしょう。

「web3でユーザーと企業という境界がなくなる」とはいっても、「積極的に開発に関わる人」「ときどき意見を言う人」「ユーザーに徹する人」というように、web3プロジェクトへの関与度に差が出るのは自然なことです。

web3が革新的でまったく新しいものとして語られている節がありますが、「ティール組織」や「自走する組織」のように、かつてから存在する組織の在り方のひとつに過ぎません。そういった意味では、web3は現状ではマーケティングワードでしかなく、少々冷静になった方が良いと感じています。

 


【2021年前後はNFTバブル・メタバースバブル】

web3という言葉が生まれたことで、VCなどによるweb3企業への投資が活発になりました。なかでも顕著なのは、NFTやメタバース関連企業への投資でしょう。

「NFT銘柄」「メタバース銘柄」と呼ばれる、NFT関連株やNFT関連の暗号資産、メタバース関連株やメタバース関連暗号資産への投資も盛んに行われていますが、投資の世界で盛り上がっていたのは個別のNFTアートやNFT不動産、メタバース不動産への投資です。

世界中で高額取引が行われ、メディアやSNSでも話題になりました。しかしながら、NFTアートやNFT不動産、メタバース不動産そのものは「オーバープライシング」であり、バブルに過ぎないでしょう

メタバースは、3D空間+アバター+交流機能(音声チャットなど)+生態系(人流あるいはエコノミー)によって構成されます。美しい3D空間や個性豊かなアバターが注目されがちですが、もっとも重要なのは「生態系(人流、エコノミー)」です。生態系とはつまり、そこに人がいるかどうか。生態系のいないメタバースは無価値でしょう。交通量のない現実世界の土地に高い値段がつきにくいのと同じことです。

 


【web3企業のクロスボーダーM&Aが増加する理由】

web3への投資は、現状はただのバブルであると考えられます。かつての六本木ヒルズのIT企業バブルが、シンガポールやドバイのweb3企業バブルになっているだけです。数々のweb3企業が生まれていますが、そのほとんどは消滅するでしょう。

web3企業への投資は、事業投資と同じです。事業である以上は、経営陣に関する情報や事業計画などを収集、検討した上で、投資対象となり得るかどうかを判断する必要があります

M&Aで事業を買う場合は、収支や事業計画を確認するはずです。株式投資をする場合も、業績や経営陣に関する情報を調べるでしょう。ところが「web3」というだけで盲目的に投資してしまうケースが散見されます。

ひと口に「web3」と言っても、暗号資産取引所やペイメントサービス、DeFi(分散型金融、金融サービスの自動運転)、GameFi・ブロックチェーンゲーム、NFTマーケットプレイス…など、さまざまなサービスがあります。web3企業は将来的には「分散型化(DAO:分散型組織)」を目指していますが、途中で断念するケースも出てくるでしょう。そのとき、ある程度の開発が進んでおり、ユーザーを獲得できていれば、他のweb3企業や大手中堅企業、スタートアップ・ベンチャー企業によってM&Aされる可能性があります。

シンガポールやドバイなど海外で登記しているweb3企業も多いですから、おのずとクロスボーダーM&Aになっていくでしょう

 


【共存するweb2とweb3】

web2やweb3は、「時代」で括られることもありますが、組織の在り方の一形態でもあります。時代で括ると時間軸を超えて共存することはありませんが、組織の一形態であれば同じ時代に共存することができます。

web2を中央集権型組織、web3を分散型組織と定義すれば、会社のフェーズによって適する形態は異なります。「だれかリーダーが意思決定して進める方が速く、効率的で実現可能性が高い」こともあれば、「みんなの意見を取り入れて進める方が、時間はかかっても結果的に良いものができる」こともあります。

一方で、「特定の人が独裁的に決定するのは、不平等である」ということもあれば、「みんなの意見を聞いていては、なにも決まらず、なにも進まない」ということもあるわけです。

自社がどんなフェーズにあるのか、なにを目的とし、どんなことを実現したいのかによって、web2が適していることもあれば、web3が適していることもあるでしょう「自社のビジョンや計画の達成のために、web3企業の買収が必要である」と判断すれば、web3企業のM&Aを検討してみるのも良いかもしれません

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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