コラム
- 経営者の悩み
「六方よし」で未来を明るくするM&A
「売り手よし、買い手よし、世間よし」の言葉で知られる、近江商人の三方よし。この三方よしに3つを加えた六方よしという言葉が、SDGsやESGの観点からも注目されています。近江商人の時代から脈々と受け継がれる理念は、M&Aにおいても重要といえるでしょう。
【近江商人の三方よし】
近江商人をルーツとする企業は、大手企業から中小企業まで幅広く今も存続しています。近江商人の理念、あるいは家訓のなかで、もっとも広く知られているのが「三方よし」という言葉でしょう。
三方よしとは、「売り手よし、買い手よし、世間よし」。自分だけが儲かればいいという考え方ではなく、買い手も世間もよくする姿勢。その姿勢を忘れず、顧客や社員、社会と向き合うことで信用を得て事業を発展させるという、経営の原理原則です。
近江商人は、相手が必要としているものを、良い品質と適正な価格で提供することで買い手である顧客を喜ばせました。そして、商品が売れることによって売り手である自分たちも利益を得て、さらに営業拠点として出店させてもらった地域には、橋を作ったり、道路整備を行ったりなどして貢献しました。そうして、地域社会全体をよくしていくのが三方よしです。
【三方よしから六方よしへ】
そんな三方よしが、SDGsやESGの観点からも「ビジネスのあるべき姿」をよく言い当てていると注目されています。世界的にみて日本に長寿企業が多いのは、日本各地に広まった近江商人とその理念が影響しているのかもしれません。
三方よしに、「作り手よし」「地球よし」「未来よし」を加えた「六方よし」という言葉も、SDGs・ESGとともに広まりつつあります。買い手からも、世間からも、作り手からも、地球からも、未来からも搾取しない。そんな全方向への配慮が、今後も長く事業を続けるためには欠かせないといえます。
【M&Aは六方よしを実現できる】
M&Aは、買い手(譲受)企業、売り手(譲渡)企業、そして社員や顧客、取引先といった世間なしでは成立しません。そもそも、買い手(譲受)企業も売り手(譲渡)企業も、何らかのメリットがなければM&Aを検討しませんから、M&Aはすべての関係者にとって「よし」となるような三方よしを目指して行われます。
人手不足の解消を目的にM&Aを検討する買い手(譲受)企業は、年々増加しています。対して、売り手(譲渡)企業オーナーの心配事は、長年ついてきた社員の処遇です。社長である自分が辞めた後も、社員が今までどおり仕事ができ、よりやりがいがある環境を提供したいと願っています。買い手(譲受)企業も、社員をリストラなどせず、極力残ってもらうよう取り組みますから、「買い手よし、売り手よし、社員よし」の三方よしは成立し得るのです。
M&Aが行われると、買収された側の社員は最初こそ戸惑うものの、処遇がよくなり今まで以上にモチベーションが高まることがあります。具体的なメリットとしては、「大手グループの社員になったことで、住宅ローンが組めた」というケースもあります。また、買収されたことで財務力のある会社となり、結果的にサービスの質が高まり、顧客満足度が向上することもあるのです。
後継者不在などが理由の廃業により、社員全員が再就職活動を余儀なくされれば、社員の家族にも影響が及ぶでしょう。小さなお子さんがいれば、お子さんの未来にも影響します。「未来よし」まで配慮し、会社や事業を存続させることが、M&Aであればできるのです。
中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。