コラム
- 経営者の悩み
スタートアップ・ベンチャー企業の出口戦略の入り口「CVC」
IPOを目指していたスタートアップ・ベンチャー企業が、なんらかの理由でIPOを諦め、出口戦略としてCVCからのM&Aを検討するケースが増えています。本稿では、CVCの基礎やVCとの違いなどについて解説します。
【出口戦略としてのCVCとは】
CVCは、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(Corporate Venture Capital)の略です。投資を本業とはしていない一般企業(主に大手企業)によるスタートアップ・ベンチャー企業への投資のことで、原則として自社が営んでいる事業との関係が深い、シナジー効果が期待できそうな企業に対して投資を実施します。子会社やファンドを設立し、そこを通じて出資を行います。
CVCから出資を受けているのは、AIやSaaS、フィンテック、IoTなど、市場規模の拡大が予測されている分野です。資金調達だけではなく、M&Aによる出口戦略(イグジット)を考えているスタートアップ・ベンチャー企業は、積極的にCVCとコンタクトを取るようになっています。CVCから出資を受けて事業を構築、拡大し、大手企業にM&Aしてもらうという算段です。
日本国内のCVCには、例えばZ Venture Capital、GREE ベンチャーズ、NTTドコモ・ベンチャーズ、Salesforce ベンチャーズ、マネックスベンチャーズ、GMO Venture Partners、楽天キャピタル、日本郵政キャピタル、セゾンベンチャーズ、31VENRURES、Sony Innovation Fundなどがあります。
【VCとCVCの違い】
スタートアップ・ベンチャー企業に投資する手法としては、CVC以外に本体出資やVC出資があります。本体出資は、自社で出資するケースです。VC出資は、社外のVC(Venture Capital)を通じて出資するケースです。
では、VCとCVCにはどのような違いがあるのでしょうか。
VCもCVCも、スタートアップ段階にある企業に対して投資でサポートを実施するという意味では同じような仕組みです。しかし、それぞれの目的には違いがあります。
VCの最大の目的は、キャピタルゲインを得ることです。VCは、一般事業会社や金融機関、機関投資家などから投資資金を集めて、成長性が高いと思われるスタートアップ・ベンチャー企業に投資します。そして、その企業がIPOしたときの株の売却益(キャピタルゲイン)の獲得を目指します。投資によって利益を得ることが目的ですので、出資元と出資先の事業領域や事業内容に関連性がある必要はありません。
一方、CVCの目的は自社の事業における成長・拡大です。そのため、出資先は協業することによる利益創出が可能であると判断されたスタートアップ・ベンチャー企業に限られます。
【CVCからM&Aへ】
CVCの場合、経営権を持つことになるM&Aとは違い、主に投資先の技術を活用することになります。出資する大手企業側も、将来的なM&A候補企業を調査・探索する目的でCVCを実施するケースが増えています。大手企業では、社内でイノベーションが起こりにくい環境にあるからです。
CVCを通じて、複数のスタートアップ・ベンチャー企業に出資を行い、投資ポートフォリオを構築してリスクを分散しつつ、シナジー効果が図れて、より成長確度の高いスタートアップ・ベンチャー企業をM&Aによって買収していくという戦略です。
一方で、出資を受けるスタートアップ・ベンチャー企業側も、年々基準の高まっているIPOを目指すよりも、M&Aによる出口戦略の方が現実的であると判断するケースが増えています。社会にイノベーションを起こす意味でも、CVCを通じたスタートアップ・ベンチャー企業と大手企業の交流は欠かせません。
中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。