コラム

「マンパワーが足りない」「慢性的な人手不足を解消したい」という中小企業は多いでしょう。その解決策として、就労支援福祉事業をM&Aで買収することが有効かもしれません。本稿では、就労支援福祉事業について解説致します。

 


【就労継続支援事業とは】

就労継続支援事業は、一般企業に雇用されることが困難な障がいや難病を持つ人に、就労機会を提供するための社会福祉サービスです。働く機会の提供を通じて、知識や能力の向上のために必要な訓練を行う事業でもあります。

 

◆就労継続支援事業A型

就労継続支援事業のなかでも、「就労継続支援事業A型」は利用者と事業所が雇用契約を結んで利用する社会福祉サービスです。

就労継続支援A型の利用対象者は、原則18歳以上65歳未満で、身体障がいや知的障がい、精神障がい、発達障がい、難病がある方です。また加えて以下の条件があります。

  • 就労移行支援を利用したが、就職には結びつかなかった方
  • 特別支援学校を卒業して就職活動をしたが、就職には結びつかなかった方
  • 以前働いたことはあるが、現在は就労していない方

 

利用者にとっての就労継続支援A型を利用するメリットは、

  1. 最低賃金が保障されること
  2. 一般企業への就職者数が就労継続支援B型よりも多いこと

が挙げられるでしょう。

 

就労継続支援A型の事業所では、以下のような仕事が行われています。

レストランなど飲食店のホールスタッフ
データ入力などのオフィスワーク
WEBサイト、ECサイトの構築と制作
動画編集
インターネットオークション作業代行
車部品などの加工作業
パッキング作業

 

就労継続支援A型の場合、1日の実働時間は4~8時間程度であることが多いです。

 

◆就労継続支援B型

就労継続支援事業A型の他に、「就労継続支援B型」と呼ばれる社会福祉サービスもあります。就労継続支援事業B型は、就労継続支援A型とは異なり雇用契約を結ばずに利用する社会福祉サービスです。

 

就労継続支援B型の利用対象者は、身体障がいや知的障がい、精神障がい、発達障がい、難病がある方で、加えて以下の条件があります。

  • 50歳に達している方
  • 障害基礎年金1級を受給している方
  • 以前働いたことはあるが、年齢や体力の面で一般企業での就労が困難となった方
  • 就労移行支援事業者などによる客観的評価で、就労面の課題が把握されている方

 

利用者にとっての就労継続支援B型を利用するメリットは、

  1. 就労継続支援A型よりも労働時間の縛りが少ないので、負担を少なくできること
  2. 年齢上限がないこと
  3. 事業所の数が就労継続支援A型よりも多いこと

が挙げられるでしょう。

 

一方で、就労継続支援B型のデメリットとして「雇用契約を結ばないため、賃金が安いこと」があります

 

就労継続支援B型の事業所では、以下のような仕事が行われています。

レストランなど飲食店での調理
WEBサイト制作
農作業
パンやクッキーなどの製菓作り
衣類のクリーニング作業
部品の加工作業
刺繍などの手工芸

 

就労継続支援B型の場合、雇用契約を結ばないため、賃金ではなく成果報酬の「工賃」が支払われます。そのため、1日あたりの実働時間は利用者によって差があります。

 


【なぜ就労継続支援事業のニーズが高まっているのか】

これらの就労継続支援のニーズは、年々高まっています。その背景のひとつは、社員を45.5人以上雇用している企業は、障がい者の方を1人以上雇用することが義務化されたことです

従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。(障害者雇用促進法43条第1項)

民間企業の法定雇用率は2.3%です。従業員を43.5人以上雇用している企業は、障害者を1人以上雇用しなければなりません。

出典:厚生労働省ホームページ 障害者の雇用 雇用する上でのルール(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html

 

そのため、中小企業にとっても障がい者の方々の雇用は身近なことになりました。また、SDGs(持続可能な開発目標)として17つのグローバル目標が掲げられており、世界中から機会の不平等や貧困をなくし、すべての人が働きがいを追求でき、福祉サービスを利用しながら、健康に暮らせるダイバーシティ社会、インクルーシブ社会を実現するためには、社会福祉事業やサービスが欠かせません。

 


【なぜ就労継続支援事業A型・B型が人手不足を解消するのか】

就労継続支援事業は、前述のとおり働く機会の提供を通じて、知識や能力の向上のために必要な訓練を行う事業ですが、一般企業で行われている業務の一部を事業所にアウトソーシングしてもらい、利用者はその業務を行うことになります。

上記のとおり、就労継続支援A型に依頼・発注できる仕事はルーチンワークや軽作業が多いのですが、サイトのデザインや制作、チラシの制作、動画編集などの仕事を請け負っている就労継続支援事業所もあります。

依頼・発注できる仕事は実に幅広くありますので、ルーチンワークになっている業務はもちろん、意外な業務もアウトソーシングできるかもしれません。そのため、中小企業の人手不足解消の手段のひとつとして、就労継続支援事業所に業務をアウトソーシングすること、あるいは自社内・グループ内で就労継続支援事業所を経営することが十分考えられるのです。

 


【コア業務とノンコア業務を整理する】

業務の一部をアウトソーシングするためには、既存業務の棚卸や業務フローの整理をする必要があります。業務の棚卸を行い、だれにでもできる業務であればアウトソーシングを検討しても良いでしょう。人件費という固定費を変動費化することができ、残業代の削減や労働環境の改善にもつながります。

既存の業務を、コア業務とノンコア業務に分けて整理することも大切です。コア業務とは、売上に直結し、かつ自社のノウハウとして重要な業務です。ノンコア業務とは、だれが行っても成果物やサービスの品質に大きな差はなく、売上への貢献度も比較的低い業務です。

アウトソーシングすることで空いたマンパワーを、新規事業や新商品・サービスの開発、顧客満足度の向上、セルアップやクロスセルのための営業・マーケティング活動に充てることもできます。特に、顧客満足度を上げ、解約を減らし、紹介の連鎖をつくることは、利益率の向上にもつながるでしょう。自社のコア業務は何なのかを自問し、そこに集中することで社員の満足度や定着率も上がるかもしれません。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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