コラム

事業承継や出口戦略の手段として、中小企業の間でもM&Aが行われるようになってきました。しかし、必ずしもM&Aの結果、売り手(譲渡)企業と買い手(譲受)企業の双方が幸せになっているとは限りません。では、中小企業M&Aにおける注意点にはどのようなことがあるのでしょうか。本稿では、売り手(譲渡)企業の視点から注意点を解説します。

 


【注意点①「ウソはつかず誠実に情報開示する」】

中小企業M&Aにおいて、まず重要なのは「買い手(譲受)企業との信頼関係の構築」です。信頼関係を構築し、また維持するうえで絶対に必要なのは、ウソをつかず誠実に情報を開示することです。

事実と異なることを伝えてしまった場合、仮に他意がなかったとしても信用を失いかねません。誤解を招くような表現や発言も控えた方が良いでしょう

粉飾決算があった場合は、早い段階で正直に伝えた方が賢明です。逆粉飾の場合も同様です。M&Aに慣れた買い手(譲受)企業であれば、決算書を見た段階で怪しいところはすでに見抜かれていると思って良いでしょう。しかし、その段階で買い手(譲受)企業が指摘することはありません。賢い買い手(譲受)企業は、デューデリジェンスで粉飾を発見して譲渡価格の減額交渉をするからです。

 


【注意点②「秘密は必ず厳守する」】

これも言葉にすると当たり前のことですが、秘密厳守はM&A取引においてとても重要なことですM&Aの交渉先はもちろんですが、オーナー自身がM&Aに興味を抱いていること、自社の売却を検討していることも、周囲に容易に話さない方が良いでしょう

なぜ秘密を厳守すべきかというと、M&Aは最後の最後までなにが起こるかわからないからです。M&Aは、最終合意当日に破談になることも少なくありません。破談となった事実が社員などに知られてしまうと、「社長は自分たちを売ろうとしていた」というわだかまりが生じることになってしまいます。

社員だけでなく、取引先にも影響が及んでしまう可能性があります。「会社を売ろうとしたが売れなかったらしい。なにか悪い理由でもあるのではないか」と憶測を生んでしまうかもしれません。

 


【注意点③「ノンネームシートは複数作成する」】

ノンネームシートは、事業内容や譲渡スキーム、希望譲渡価格、売上規模、エリアなどの最低限の情報を、会社名を伏せ、特定されない情報の範囲内で開示するシートです。

買い手(譲受)企業候補は、ノンネームシートを見て興味があれば守秘義務契約(NDA)を締結し、会社名を含む詳細情報を取得します。つまり、ノンネームシートの段階で「興味なし」となってしまうと、次のステップに進むことなく終わってしまうのです。そのため、ノンネームシートは買い手(譲受)企業のニーズに合わせて複数作成することをオススメします

例えば店舗型ビジネスの場合、「立地に関心があるのか」「仕入れルートに関心があるのか」「スタッフの技術や人数に関心があるのか」など、ニーズによって訴求ポイントは異なります。訴求ポイントを適正化するだけで、ノンネームシートによる反応率は改善するでしょう。

 


【注意点④「複数の買い手(譲受)企業を比較する」】

買い手(譲受)企業候補が現れたとしても、すぐに売却を決めてしまうことはオススメできません。できる限り、複数の買い手(譲受)企業を比較するようにしましょう

比較することで、理想的な買い手(譲受)企業に出会える確率が上がりますし、自社をより高く評価してくれる買い手(譲受)企業に出会える確率も上がります。

前述のとおり、買い手(譲受)企業の関心・ニーズはそれぞれです。複数の企業と面談し、交渉することで好条件を引き出せるかもしれません

 


【注意点⑤「最終契約書は弁護士に確認してもらう」】

M&Aの交渉は長期化しがちですので、最終合意の時点では疲弊している可能性もあります。しかし、最終契約書は極めて重要な契約ですので、手を抜かず作り込んだ方が良いでしょう

最終契約書には、M&Aにおける約束事が細かく記載されています。「内容をよく読んでいなかった」「仲介会社に任せていた」と確認を疎かにすると、後で苦労することになります。

最終契約書は、M&Aの法務に精通した弁護士に確認してもらってください。弁護士であってもM&Aには詳しくない先生もいらっしゃいますので、専門家に相談すると良いでしょう。一方で、専門家だからと言って丸投げするのも良くありません。オーナーとしての思いをしっかりと汲み取り、最終契約書に反映してくれる専門家を選びましょう。あくまでも、専門家と“一緒に”作成するのが最終契約書です

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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