コラム
- M&A全般経営者の悩み
会社を廃業すべきか売却すべきか
明確な後継者がいない中小企業オーナーの方であれば、「会社を廃業すべきなのか、それともM&Aで売却すべきなのか」と一度は考えたことがあるのではないでしょうか。本稿では、廃業するためにかかるコストや手続き、廃業と売却の比較などについて解説致します。
【廃業と倒産の違いとは】
「廃業」と似た言葉に「倒産」があります。廃業とは、経営者が自らの意思で会社を辞めること。一方の倒産とは、業績悪化や資金繰りの悪化などを理由に会社を辞めることです。
廃業に関連する言葉には、「解散」や「清算」があります。解散は、会社の法人格を消滅させるための手続きをスタートすることを指し、清算は、自社に残った資産や負債を適切に処分することを指します。
【会社の解散・清算にかかるコストと手続き】
会社を廃業して解散・清算しようと考えたとき、どれくらいのコストがかかり、どのような手続きが必要なのでしょうか。
まずコスト面ですが、一例としては解散登記費用が約3万円、官報の掲載料が約4万円、廃業手続きを専門家に依頼する場合の費用が30万~40万円ほどかかります。廃業すると会社の資産も清算されるわけですが、廃業するためのコストも別途かかりますので、廃業という選択肢は望まないというのが中小企業オーナーの本音でしょう。
また、会社を廃業し解散・清算を行う際に必要な手続きには、「通常清算」と呼ばれる方法が使われます。手続きがスムーズにいったとしても、少なくとも2ヶ月はかかると想定していた方が良いでしょう。
通常清算で必要な手続きは、主に以下の内容です。
- 株主総会の特別決議による解散の決定
- 清算人の選任
- 清算人の選任登記および解散登記の実施
- 官報による解散の公告
- 解散の確定申告
- 社内にある財産の調査
- 不動産などの財産の換価
- 債務(借金)の返済、株主への残余財産の分配
- 株主総会による清算事務報告の承認
- 清算の確定申告
- 清算結了の登記
これらの手続きには、税金や法律に関する専門知識が欠かせません。必ず税理士などの専門家に相談し、手続きを進めるようにしましょう。
【会社を廃業する場合と売却する場合の比較】
では、会社を廃業する場合とM&Aで売却する場合では、どのような違いがあるのでしょうか。
中小企業オーナーの多くが気に掛けるのが、「社員の今後」です。会社を廃業する場合、これまで働いてくれていた社員との雇用契約は途絶えることになります。社員は職を失うため、転職活動をする必要が生じます。
また、廃業すれば取引先との契約も途切れます。自社の商品やサービスに独自性があり、他社で代わりがきかない場合、取引先の業績が悪化する可能性もあるでしょう。
一方で会社をM&Aで売却する場合は、社員との雇用契約も取引先との契約も買い手(譲受)企業に引き継がれることになります。そのため、売却という選択肢には社員や取引先にもメリットがあります。
金銭面では、会社を廃業するよりも売却した方が、基本的には手元に多くの現金を残すことができるでしょう。
譲渡金の算出方法は複数ありますが、例えば営業利益が約5000万円あり、特段問題となる事情がなければ、基本的には5000万円よりも高い譲渡金を得ることができる可能性が高いです。
廃業する場合は、多くのケースでは会社に残っている財産を低い評価額で売却することになります。そのため、売却すれば現金がプラスになる場合でも、廃業すれば借金を背負う事態になりかねません。
上記のとおり、廃業する場合は廃業コストがかかりますし、設備の処分費や在庫処分費、原状回復費なども発生します。「譲渡金-仲介手数料 > 廃業コスト」となる場合は、譲渡先を探す方が、廃業よりもメリットが大きくなる可能性が高くなると判断できるでしょう。
廃業にはコストや手続きの手間だけでなく、精神的な負担もかかります。
売却という選択肢も、一度検討してみてはいかがでしょうか。
中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。