コラム
- M&A全般経営者の悩み
赤字会社でもM&Aで売却はできるのか
「赤字であっても、会社を売却することができる」という話を聞いたことのある経営者もいらっしゃるでしょう。実際のところ、赤字会社の売却は可能なのでしょうか。本稿では、赤字会社を買収する買い手(譲受)企業のメリットについても解説します。
【赤字でもM&Aで売却できる可能性はある】
結論から言えば、赤字であっても会社をM&Aで売却できる可能性はあります。しかし、赤字会社のM&Aは黒字の場合と比べて割合が少ないという事実はあります。
赤字会社のM&Aが少ない要因としては、「オーナーが赤字状態の自社に価値がないと思っていること」「買い手(譲受)企業が赤字会社を敬遠する傾向があること」「M&A仲介会社の報酬や対応にハードルがあること」などが挙げられるでしょう。
自社が赤字状態の場合、「赤字の会社をいったいだれがほしいのか」と考えるオーナーも少なくありません。しかし会社の価値は、買い手(譲受)企業などが客観的に判断するものです。赤字であっても、会社や事業を立て直す力を持っている企業や、事業の一部を切り出せるなら買収したいと考える企業もいます。そのため、「赤字だから絶対に売却できない」と判断するのは早々かもしれません。
一方で、買い手(譲受)企業側にも「赤字会社を敬遠する傾向」はあります。例えばM&Aの目的が売上や利益の増加である場合は、利益企業が買収先として好まれるのは当然です。
また、M&A仲介会社が赤字会社のM&A案件には積極的ではないという面もあります。譲渡価格が高い方がM&A仲介会社の報酬も高くなりますし、赤字会社からは報酬を受け取りにくく案件化しづらいという理由もあるでしょう。
このような要因から赤字会社のM&A実績は少ないわけですが、買い手(譲受)企業次第では赤字会社を安く買収し、事業を立て直すことで投資リターンを大きくすることもできますから、戦略的に赤字会社をM&Aしているケースもあります。会社の成長を考えている経営者にとって、赤字会社のM&Aは検討すべき選択肢と言えるでしょう。次に、赤字会社を買収するメリットについても解説していきます。
赤字会社を買収するメリット① 「節税効果」
赤字会社を買収するメリットとして挙げられるのは、節税効果です。赤字状態の場合、多額の繰越欠損金が計上されていることが多くあります。そのため、これを活用することで法人税の負担を少なくすることが可能です。
赤字会社の黒字転換を目指す場合は、キャッシュを補填した上で黒字化させていきます。繰越欠損金と利益を相殺することができるのですが、一定の制限があることに注意が必要です。
M&Aによって赤字会社の50%超の株主が変更となる場合、買収から5年間は、繰越欠損金はないものとして法人税の計算を行うルールになっているからです。買収から5年間が経過した後には、繰越欠損金を使って法人税計算を行うことが可能になります。
赤字会社を吸収合併する場合は、売り手(譲渡)企業の繰越欠損金は、買い手(譲受)企業の繰越欠損金として引き継ぐことが可能です。ただし、この場合も一定の制限(みなし共同事業要件)があります。以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 売り手(譲渡)企業が買い手(譲受)企業と同業種であること
- 両社の会社規模が違いすぎないこと(5倍以内)
- M&A後も、買い手(譲受)企業の既存事業を継続すること
これらの要件をすべて満たす場合、赤字会社に累積されている繰越欠損金を法人税計算にあたって利用することが可能になります。適用には条件がありますので、顧問税理士に相談してみるとよいでしょう。
赤字会社を買収するメリット② 「シナジー効果の期待」
M&Aには、ゼロから事業を立ち上げるのではなく、すでに立ち上がっている事業を取得できるというメリットもあります。M&Aによって取得する新規事業と既存事業を掛け算することによって、シナジー効果が期待できます。
M&Aによって、これまでにない販路を活用することや、買収先の会社が持っていたブランド力や顧客、取引先などを引き継ぐことができることは事業拡大の可能性を高めるでしょう。シナジー効果によって、シェアの獲得や売上拡大、利益拡大が期待できることも、赤字会社を買収するメリットの1つです。
赤字会社を買収するメリット③ 「初期投資のコスト削減」
M&Aで買収価格(譲渡価格)を決める算出方法はいくつかありますが、赤字会社の場合は黒字会社よりも価格が安くなる可能性が高いです。投資総額を抑えられることは、買い手(譲受)企業の大きなメリットでしょう。
また赤字会社のオーナーは、「できるだけ早く会社を売却したい」と考えているケースが多くあります。そのため、会社の本来の価値よりも安い価格で買収できる可能性があるわけです。
しかし、赤字会社を買収する場合は検討の段階で赤字の要因をしっかりと分析、把握することが重要です。決算書や資料、現場を見ながら専門家やM&Aアドバイザーと相談し、しっかりとデューデリジェンスをしましょう。赤字会社で安いからと安易に買収すると、後々後悔してしまうかもしれません。
中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。