コラム
- M&A全般経営者の悩み
医療関連業界の動向
近年、業界の動向変更が激しい医療関連の業界。その中でそれぞれの業界でどのような動きがあるかを解説いたします。
目次
- 調剤薬局の動向
- 病院・クリニック業界の動向
- 介護業界の動向
- まとめ
1、調剤薬局:待遇と報酬の変化に対する不安への理解と対策
ここ数年、年間数十件のペースで調剤薬局関連のM&Aは行われている一方で、同時に新型コロナウイルスの影響による患者数、処方箋枚数の減少で倒産件数も増えています(2020年16件、2021年27件、2022年16件、2023年12件)。業界の風向きは逆風といわれ、国による医療費の抑制により薬価差益が取れにくくなり、調剤報酬も複雑化し対人業務の充実が求められているため、特に中小規模の薬局の負担は増加しています。またドラッグストアの参入(調剤併設店舗、単独調剤薬局の増加)、Amazonのような巨大企業の参入、オンライン診療・服薬指導のニーズの高まり、デジタル化の波もこの業界を変革させている要因でしょう。これまでデジタル化については他業界から大きな遅れをとっていましたが、マイナ保険証の普及から始まり、電子処方箋も広がったあかつきには、DX化に適応できない薬局は経営が立ちゆかなくなる可能性もあります。利益を追求するためには大規模化しコストを抑制する必要もあります。こういった複数の要因からただ後継者がいないという理由だけではない、上位企業への集約や、業界再編の動きが強まっています。
2、病院・クリニック業界の動向
厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計(2022年)」によると、医療経営者(病院の開設者又は法人の代表者)の平均年齢は64.9歳で、帝国データバンク「全国『社長年齢』分析調査(2023年)」で発表された日本の経営者全体の平均年齢60.5歳と比較すると、医療経営者の高齢化が進んでいることがわかります。診療所の開設者又は法人の代表者は平均年齢が62.5歳ですので、こちらも国内企業の経営者の平均年齢より高齢です。また医療機関の「休廃業・解散」動向調査(2023年度)では、診療所の休廃業・解散数は580件に対し倒産した件数は28件であり、過去最多となっています。廃業する場合でも多額のコスト(法的手続きのための時間的コスト、診療所をスケルトンにする場合等の金銭的コスト)がかかり、従業員も職を失ってしまうという問題があります。こういった問題点を解決するためにM&Aによる病院・医院承継が選ばれる傾向にあります。すでに休廃業・解散のクリニックが増加していることから、今後も第三者承継を検討する件数は増えることが見込まれます。また病院の場合、基準を満たすための医師や看護師等の人員確保、医療コストや人件費の高騰、診療報酬の引き下げや施設・設備にかかるコストなどの問題によって経営難に陥る病院・クリニックも昨今増えています。後継者不在だけでなく、こういった問題を解決するため、M&Aによるグループ化の流れもでてきています。
3、病院・クリニック業界の動向
2000年に介護保険制度がスタートし、20年以上経つため、当時事業を始めた経営者にとっては世代交代の時期に来ています。そういった経営者に後継者がおらず、事業承継を検討しているケースや、3年に一度の報酬改定の影響を少なからず受け事業の存続が厳しいため、後継者がいたとしても、体力のある企業の傘下に入るという決断とする経営者もいらっしゃいます。また高齢者人口が増大する中、介護サービスの需要は拡大を続けていますが、年々介護業界は人材不足が深刻な課題となっています。人材課題を解決するためM&Aを行うことで経営の効率化が図れ、利用者さまへのサービスを充実させることもできるため、譲渡を決断するケースも増えています。日本はまだまだ高齢化が進んでいますので、より介護サービスへの需要は増加することが見込めます。地方都市の方が高齢化がより進み介護が必要な人も増加するため、都市部だけでなく、地方都市でもM&Aが進むことが見込めます。
4、まとめ
調剤薬局、病院・クリニック、介護業界では、M&A(企業の合併・買収)が活発化しており、業界の変化が顕著です。調剤薬局業界では、国の医療費抑制やデジタル化の進展によって経営環境が厳しくなり、大手企業への統合が加速しています。病院・クリニック業界では、経営者の高齢化や経営難を背景にM&Aによる事業承継が増加。介護業界でも、後継者不足や報酬改定の影響から、体力のある企業との統合が進んでいます。高齢化の進行に伴い、今後もM&Aの動きは続くと考えられます。