コラム

M&Aは会社の成長戦略の一つですが、交渉が難航することも少なくありません。売り手企業のオーナーとして、M&Aの交渉を成功させるためには、どのようなポイントに注意すべきなのでしょうか? M&Aの交渉を成功させるためのポイントを、8つに分けてご紹介します。前編では、M&Aの目的、価格の評価、条件、リスクの4つについて。後編では、交渉術、交渉テクニック、交渉相手の理解、交渉の進め方の4つについて解説します。

 

目次

  1. M&Aの目的を明確にする
  2. M&Aの価格を適正に評価する
  3. M&Aの条件を慎重に検討する
  4. M&Aのリスクを事前に把握する
  5. まとめ

 

1、M&Aの目的を明確にする

M&Aの交渉を始める前に、まずは自社のM&Aの目的を明確にする必要があります。M&Aの目的は何でしょうか? 社員の雇用を守りたいからでしょうか? 売却益を得たいからでしょうか? それとも、廃業を回避するためにM&Aを選択するのでしょうか?
それらのM&Aの目的に応じて、交渉の方針や優先順位を決めることができます。例えば、社員の雇用を最優先するなら、買い手企業の経営方針や人事方針を確認することに注力するでしょう。売却益を最優先するなら、価格を高くすることに注力することになります。廃業の回避を最優先するなら、M&Aの成立を早めることに注力します。
M&Aの目的を買い手企業に伝えることも重要です。M&Aの目的を共有することで、買い手企業との信頼関係を築くことができるからです。また、M&Aの目的に沿った提案や交渉を受けやすくなります。

 

 

2、M&Aの価格を適正に評価する

M&Aの交渉で最も重要な要素の一つが価格です。価格は、自分の会社の価値をどのように評価するかによって変わります。M&Aの価格を適正に評価するためには、企業価値評価の手法を知る必要があるでしょう。

企業価値評価の手法には、大きく分けて「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」の3種類があります。

コストアプローチは、会社の資産や負債の現在価値を合計することで企業価値を算出する手法です。インカムアプローチは、会社の将来の収益やキャッシュフローの現在価値を合計することで企業価値を算出します。最後のマーケットアプローチは、同業他社や類似のM&A事例の株価や売却価格を参考にすることで企業価値を算出する手法です。

これらの手法を使って自社の価値を評価することで、M&Aの価格の目安をつけることができます。しかし、企業価値評価の結果は交渉の基準に過ぎません。最終的な価格は、買い手企業との交渉で決まります。そのため交渉の過程で、自社の強みや魅力をアピールすることが大切です。

 

 

3、M&Aの条件を慎重に検討する

M&Aの交渉で重要な要素のもう一つが条件です。M&Aの条件とは、価格だけでなく、支払い方法、引き渡し時期、保証条項など、M&Aの実行に関わる細かな事項のことです。M&Aの条件は、M&Aの成否や効果に大きな影響を与えるので、慎重に検討する必要があります。

M&Aの条件は、交渉の余地があります。そのため、自分の希望や譲れない点を明確にすることが重要でしょう。例えば、支払い方法については、「現金一括払い」「株式交換」「約束手形」などがありますが、自分にとって良い方法を選ぶことができます。引き渡し時期については、早期にM&Aを完了させたいのか、時間をかけて移行を進めたいのかを考えることができるでしょう。保証条項については、自社の財務状況や法務状況に応じて、買い手企業に対する保証の範囲や期間を決めることができます。

M&Aの条件は、大まかな合意を基本合意書でまとめることが一般的です。基本合意書は、M&Aの交渉の方向性を示す文書であり、法的な拘束力はありません。しかし、基本合意書に記載された内容は、後の契約書に反映されることが多いので、注意深く確認することが必要でしょう。

 

 

4、M&Aのリスクを事前に把握する

M&Aの交渉を進める上で、忘れてはならないのがリスクです。M&Aには、「財務リスク」「税務リスク」「法務リスク」「労務リスク」「人的リスク」など、さまざまなリスクが存在します。これらのリスクを事前に把握することで、M&Aの失敗やトラブルを防ぐことができるでしょう。

M&Aのリスクを把握するためには、デューデリジェンスという調査を行うことが必要です。デューデリジェンスは、買い手企業が売り手企業の財務状況などを詳細に調べることです。デューデリジェンスの結果によって、M&Aの価格や条件を再交渉することもあります。

M&Aのリスクを把握した上で、契約書で対処することも重要です。契約書には、リスクに関する条項を盛り込むことができます。例えば、売り手企業の隠れた負債や訴訟などが発生した場合に、売り手企業が買い手企業に対して損害賠償をすることを約束する保証条項や、売り手企業が買い手企業に対してM&A後の業績や利益に応じて追加で支払うことを約束するアーンアウト条項などがあります。これらの条項は、リスクの分担やインセンティブの付与に役立つでしょう。

 

 

5、まとめ

M&Aの交渉は、会社の成長戦略の一つですが、難しいプロセスです。売り手企業のオーナーとしてM&Aの交渉を成功させるためには、さまざまなポイントに注意する必要があります。

本稿では、M&Aの交渉を成功させるためのポイントを8つに分けてご紹介しました。前編では、M&Aの目的、価格の評価、条件、リスクの4つについて解説し、後編では、交渉術、交渉テクニック、交渉相手の理解、交渉の進め方の4つについて解説します。
M&Aの交渉を成功させるためには、自社の企業価値や強みを正しく評価し、買い手企業との信頼関係やコミュニケーションを重視し、リスクを事前に把握し、契約書を注意深く確認することが大切です。また、交渉の過程で、M&Aの目的や優先順位を明確にし、柔軟に対応して専門家のサポートを活用することも効果的でしょう。

M&Aの交渉は一筋縄ではいかないものですが、上手に進めることで、自社の存続や成長、発展につながる可能性があります。M&Aの交渉の際には、本稿の内容を参考にしていただければ幸いです。

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