コラム

M&A後のPMI(統合作業)は、会社の成長や競争力を高めるために不可欠なプロセスです。しかしPMIにおいて最も重要で難しいのが、人事評価制度の設計と実施でしょう。本稿では、PMIにおける人事評価制度の目的や注意点、種類、実施のステップについてご紹介します。

 

目次

 

  1. なぜPMIにおいて人事評価制度が重要なのか?
  2. PMIにおける人事評価制度の目的と原則
  3. PMIにおける人事評価制度の種類と特徴
  4. PMIにおける人事評価制度の設計と実施のステップ

 

1、なぜPMIにおいて人事評価制度が重要なのか?

M&Aは、会社が成長や競争力を高めるために行う戦略的な取り組みです。しかし、M&Aは実施するだけで成功するとは限りません。M&A後には、買収した会社や合併した会社同士の経営や業務の統合が必要になります。この統合プロセスを、PMI(Post Merger Integration:ポスト・マージャー・インテグレーション)と呼びます。

PMIは、M&Aの目的やシナジー効果を実現するために不可欠なプロセスです。しかし、PMIは簡単なものではありません。異なる企業文化や組織風土、人事制度や業務システムを統合することは、多くの課題や困難を伴うからです。特に、人と組織に関わる部分は、PMIの成功に大きく影響します。

人事評価制度は、人と組織に関わる重要な要素の一つです。人事評価制度とは、社員の業績や能力を評価し、報酬や昇進などの処遇を決める仕組みです。人事評価制度は、社員のモチベーションやパフォーマンスを向上させるだけでなく、会社が掲げる目標や戦略を達成するために必要な人材を育成・配置するためにも役立ちます。

しかし、売り手(譲渡)企業の人事評価制度と買い手(譲受)企業の人事評価制度が異なる場合が多くあります。その場合、どちらの人事評価制度を採用するか、あるいは新たな人事評価制度を設計するかという問題が発生します。この問題を適切に解決しないと、社員の不満や不信感が高まり、組織の生産性や士気が低下する恐れがあるでしょう。

したがってPMIでは、人事評価制度の設計や実施について慎重に検討し、両社の社員に公平で納得できる仕組みを提供することが重要です。そのためには、PMIにおける人事評価制度の目的、設計と実施のステップ、種類と特徴などを理解しておく必要があります。

 

 

2、PMIにおける人事評価制度の目的と原則

PMIにおける人事評価制度の目的は、主に以下の3つです。
・経営戦略や目標に沿った人材配置や育成を行うこと
・社員のモチベーションやパフォーマンスを向上させること
・統合後の新たな組織文化や風土を醸成すること

これらの目的を達成するためには、人事評価制度の設計や実施において、以下の原則を守ることが必要でしょう。
・事前に両社の人事評価制度の比較分析を行い、差異や課題を把握する
・統合後の新たな組織のビジョンや戦略に基づいて、評価基準や項目を策定する
・評価方法やプロセスを明確にし、社員に周知、説明する
・評価結果に応じて、適切な報酬やキャリアパスを提供する
・評価制度の効果や問題点を定期的に検証し、改善する

 

3、PMIにおける人事評価制度の種類と特徴

PMIでは、人事評価制度の種類と特徴を理解し、統合後の新たな組織に最適な仕組みを選択・設計することが重要です。一般的に、人事評価制度には以下の3つの種類があります。

成果主義型:

社員の業績や成果に基づいて評価する制度。目標管理(MBO)やOKR(Objectives and Key Results)などがこのタイプにあたります。この制度は、社員の自主性や責任感を高める効果がありますが、目標設定や評価方法が難しいという課題もあります。

 

能力主義型:

社員の能力やスキルに基づいて評価する制度。コンピテンシー評価やバリュー評価などがこのタイプにあたります。この制度は、社員の成長や育成を促進する効果がありますが、能力やスキルの測定や定義が曖昧になりがちという課題もあります。

 

行動主義型:

社員の態度や行動に基づいて評価する制度。360度評価などがこのタイプにあたります。この制度は、社員のコミュニケーションや協調性を向上させる効果がありますが、フィードバックや相互評価が不十分だと信頼性が低くなるという課題もあります。

 

これらの人事評価制度の種類は、それぞれメリットとデメリットがあります。PMIでは、両社の人事評価制度の比較分析を行い、統合後の新たな組織のビジョンや戦略に基づいて、最適な種類を選択することが求められます。

また、人事評価制度の種類だけでなく、その実施方法や手法も重要です。例えば、自己評価や上司評価、同僚評価、部下評価などの評価者の選択や、年次評価や中間評価、随時評価などの評価プロセスやタイミングなどです。これらの要素も、両社の人事評価制度の比較分析を行い、統合後の新たな組織に合わせて検討する必要があるでしょう。

 

4、PMIにおける人事評価制度の設計と実施のステップ

PMIにおける人事評価制度の設計と実施は、大きく以下の4つのステップに分けられます。

ステップ①両社の人事評価制度の比較分析

ステップ①では、両社の人事評価制度の内容や特徴、差異や課題を比較分析します。具体的には、以下のような項目を調査しておくと良いでしょう。
・評価制度の種類(成果主義型、能力主義型、行動主義型など)
・評価基準や項目(業績や能力、態度や行動など)
・評価方法や手法(自己評価、上司評価、同僚評価、360度評価など)
・評価プロセスやタイミング(年次評価、中間評価、随時評価など)
・評価結果の活用方法(報酬や昇進、育成や配置など)

この分析により、両社の人事評価制度の強みや弱み、整合性や適合性を把握できます。また、統合後に発生しうる問題やリスクも予測できるでしょう。

 

ステップ②統合後の新たな人事評価制度の策定

ステップ②では、統合後の新たな人事評価制度を策定します。具体的には、以下のような項目を決定します。
・評価制度の目的と方針(経営戦略や目標との整合性、公平性や透明性など)
・評価基準と項目(統合後の新たな組織に求められる業績や能力、態度や行動など)
・評価方法と手法(自己評価、上司評価、同僚評価、360度評価など)
・評価プロセスとタイミング(年次評価、中間評価、随時評価など)
・評価結果の活用方法(報酬や昇進、育成や配置など)

この策定にあたっては、両社の人事評価制度の比較分析で得られた情報を活用します。また、両社の社員や関係者から意見やフィードバックを集めておきましょう。

 

ステップ③統合後の新たな人事評価制度の周知と説明

ステップ③では、統合後の新たな人事評価制度を両社の社員に周知し、説明します。具体的には、以下のような方法を用います。
・評価制度の概要や目的、方針を文書や動画で配布する
・評価基準や項目、方法や手法、プロセスやタイミングを具体的に示す
・評価結果の活用方法や処遇変更の基準を明確にする
・社員からの質問や疑問に対して回答や解説を行う
・社員の理解度や受容度を測るためのアンケートやインタビューを実施する

この周知と説明にあたっては、両社の社員に対して公平で納得できるように配慮します。また、統合後の新たな組織文化や風土を育むために、評価制度のメリットや意義を強調します。

 

ステップ④統合後の新たな人事評価制度の実施と改善

ステップ④では、統合後の新たな人事評価制度を実施し、改善します。具体的には、以下のような活動を行います。
・評価者(上司や同僚など)に対して、評価方法や手法、プロセスやタイミングを再確認する
・評価者に対して、評価基準や項目に沿った客観的かつ公正な評価を行うよう指導する
・被評価者(社員)に対して、評価結果やフィードバックを適切に伝える
・被評価者に対して、評価結果に応じた報酬や昇進、育成や配置を提供する
・評価制度の効果や問題点を定期的に検証し、必要に応じて改善策を講じる

この実施と改善にあたっては、両社の社員からのフィードバックや意見を積極的に収集し、反映します。また、評価制度が経営戦略や目標と整合しているかどうかも常に確認しておきましょう。

 

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