コラム

M&Aの世界にもDXの波が押し寄せています。将来的には、Amazonのようなオンラインサイトで会社や事業の売買を完結することが可能になるのでしょうか? NFTやAIなどの技術は、M&Aにどのような影響を与えるのか。DXが進む中で、人間の役割はどう変わっていくのか。本稿では、「M&A仲介のDX」をテーマに、近未来について解説します。

 


【M&A仲介のDXとは? オンラインで会社や事業を売買するメリットとデメリット】

M&A仲介のDXとは、M&Aのプロセスをデジタル化することで、オンラインだけで会社や事業の売買を行うことです。
M&A仲介のDXには、以下のようなメリットとデメリットが考えられます。

 

<メリット①:時間や場所に制約されずに、より多くの売り手や買い手とマッチングできる>

M&A仲介のDXによって、オンライン上で会社や事業の情報を閲覧したり、問い合わせしたり、オファーしたりすることができます。
これにより、地理的な距離や時間帯の違いなどを気にせずに、より多くの売り手(譲渡)企業や買い手(譲受)企業と出会うことができるでしょう。
また、オンライン上でのマッチングは、コストや手間も削減できます。

 

<メリット②:データや契約書などの情報をクラウド上で共有・管理できる>

M&A仲介のDXによって、データや契約書などの情報をクラウド上で安全に保存したり、必要な人だけにアクセス権を与えたりすることができます。
これにより、情報の流通や管理がスムーズになるでしょう。また、クラウド上での情報共有は、紙ベースやメールベースよりも環境に優しいです。

 

<メリット③:AIやビッグデータなどの技術を活用して、デューデリジェンスや価格交渉などの効率化や精度向上ができる>

M&A仲介のDXによって、AIやビッグデータなどの先端技術をM&Aのプロセスに導入することができます。
これにより、デューデリジェンスや価格交渉などの作業を高速化したり、精度を高めたりすることが期待できます。
例えば、AIは大量のデータから有用な情報を抽出したり、予測モデルを作成したりすることができるでしょう。ビッグデータは、市場動向や競合分析などに役立ちます。

 

※デメリット①:オンラインでは対面で感じることができない信頼感や相性が失われる

M&A仲介のDXによって、オンライン上で会社や事業の売買を行うことになりますが、それは対面で行う場合とは違った雰囲気や感覚があります。
オンラインでは相手の表情や声色などを直接感じることができず、信頼感や相性を判断することが難しくなる可能性があります。
また、オンラインではコミュニケーションのミスや誤解も起こりやすくなるかもしれません。

 

※デメリット②:セキュリティやプライバシーの保護に高い水準が求められる

M&A仲介のDXによって、データや契約書などの情報をクラウド上で共有・管理することになりますが、それはセキュリティやプライバシーの保護に高い水準が求められることを意味します。
クラウド上の情報はハッキングや漏洩などの危険にさらされる可能性があります。また、情報の取り扱いに関する法律や規制も国や地域によって異なるため、それに適合することも必要です。

 

※デメリット③:法的な整備や規制が追いついていない場合がある

M&A仲介のDXによって、オンライン上で会社や事業の売買を行うことになりますが、それは法的な整備や規制が追いついていない場合があることを意味します。
オンライン上での会社や事業の売買は、従来の対面での売買とは異なる特徴や問題点を持ちます。
例えば、オンライン上での契約書の有効性や執行力、紛争解決の方法などに関する法的な基盤が不十分な場合があります。

 


【NFTとM&Aの関係:会社や事業の情報をブロックチェーンで管理する未来】

NFTはNon-Fungible Token(非代替性トークン)の略で、ブロックチェーン上に記録された唯一無二のデジタル証明書です。
NFTはアートやゲームなどの分野で注目されていますが、M&Aにも応用することができます。
例えば、会社や事業の情報をNFT化して、売り手(譲渡)企業や買い手(譲受)企業に提供することができます。
これにより、以下のようなメリットが期待できるでしょう。

 

<メリット①:情報の真正性や所有権をブロックチェーンで証明できる>

NFTはブロックチェーン上に記録されるため、その生成や移転の履歴を追跡することができます。これにより、情報の真正性や所有権を証明することができます。
例えば、会社や事業の財務状況や業績などの情報をNFT化することで、その情報が正確であることや、その情報を持っている人が本当に売り手や買い手であることを確認することができるでしょう。

 

<メリット②:情報の流出や改ざんを防ぐことができる>

NFTはブロックチェーン上に記録されるため、その内容を変更したり削除したりすることはほぼ不可能です。
またNFTは暗号化されており、アクセス権を持つ人だけがその内容を見ることができます。これにより、情報の流出や改ざんを防ぐことができます。
例えば、会社や事業の機密情報や知的財産などの情報をNFT化することで、その情報が第三者に漏れたり改ざんされたりするリスクを低減することができます。

 

<メリット③:情報の価値を市場で反映させることができる>

NFTはデジタル証明書であり、ものによってはデジタル資産であるため、その価値は市場で決まります。
また、NFTは流通性が高く、オンライン上で簡単に売買することができます。これにより、情報の価値を市場で反映させることができます。
例えば、会社や事業の将来性や競争力などの情報をNFT化することで、その情報がどれだけ価値があるかを市場で評価することができるでしょう。

 

このようなメリットがある一方で、もちろんNFT化には以下のような課題もあります。

 

※課題①:NFT化に必要なコストや技術力が高い

NFT化はブロックチェーン技術を用いるため、その導入や運用には高いコストや技術力が必要です。
また、NFT化するためには、会社や事業の情報をデジタル化する必要がありますが、それも容易ではありません。
例えば、会社や事業の文化や人材などの情報をデジタル化することは難しいかもしれません。

 

※課題②:NFT化した情報の取引や流通に関する法的な基盤が不十分

NFT化した情報の取引や流通は、従来の情報の取引や流通とは異なる特徴や問題点を持ちます。
例えば、NFT化した情報の所有権や譲渡権、使用権などに関する法的な定義や規制が不十分な場合があるでしょう。
デジタルには所有権が認められていないという見解もあります。また、NFT化した情報の取引や流通に関する紛争解決の方法や機関も不明確な場合があります。

 

※課題③:NFT化した情報の評価や価格決定に関する基準が不明確

NFT化した情報の評価や価格決定は、市場で行われますが、その基準は不明確です。
NFTはデジタル資産であるため、その価値は主観的に決まります。
また、NFTの市場はまだ発展途上であり、安定性や透明性に欠ける場合があります。
例えば、NFTの需給バランスや流動性、競争状況などによって、その価格は大きく変動する可能性があるでしょう。

 


【AIトランスフォーメーションとM&Aの相性:AIがデューデリジェンスや交渉を行う可能性】

AIトランスフォーメーションとは、AIを活用して企業や組織、ビジネスモデル、ビジネスプロセスの変革を促進することです。
DXの先にあるトレンドでもあり、DXの一環でもあるAIトランスフォーメーションは、M&Aにも適用することができます。
例えば、AIを使って以下のようなことが可能になるでしょう。

 

<可能になること①:データ分析や予測モデルを用いて、最適なM&Aターゲットや戦略を探す>

AIは大量のデータから有用な情報を抽出したり、予測モデルを作成したりすることができます。これにより、M&Aターゲットや戦略を探す際に役立ちます。
例えば、AIは売り手(譲渡)企業や買い手(譲受)企業の特徴やニーズを分析したり、市場動向や競合分析などを行ったりすることができます。
また、AIはM&Aのシナリオやシミュレーションを作成したり、M&Aの成果やリスクを予測したりすることもできるでしょう。

 

<可能になること②:自然言語処理や画像認識などを用いて、デューデリジェンスや契約書作成などの作業を自動化する>

AIは自然言語処理や画像認識などの技術を用いて、デューデリジェンスや契約書作成などの作業を自動化することができます。
これにより、M&Aの効率化や精度向上が図れるかもしれません。
例えば、AIはテキストや画像などの形式で提供される会社や事業の情報を読み取ったり、分類したり、要約したりすることができます。
また、AIは契約書のテンプレートや条項を生成したり、チェックしたり、修正したりすることもできます。

 

<可能になること③:機械学習や強化学習などを用いて、価格交渉やシナジー創出などの最適な行動を選択する>

AIは機械学習や強化学習などの技術を用いて、価格交渉やシナジー創出などの最適な行動を選択することができます。
これにより、M&Aの価値最大化が図れるでしょう。例えば、AIは価格交渉における相手の戦略や心理を分析したり、自分の目標や限界を設定したりすることができます。
また、AIはシナジー創出における相手の強みや弱みを評価したり、自分の貢献や期待値を計算したりすることもできるかもしれません。

 

AIトランスフォーメーションによって、M&Aの効率化や精度向上、価値最大化が図れると考えられます。
しかし、AIトランスフォーメーションにも以下のような課題があります。

 

※課題①:AIの判断や行動に対する透明性や説明責任が低い

AIは複雑で高度なアルゴリズムに基づいて判断や行動を行いますが、そのプロセスは人間にとって理解しにくい場合があります。
これにより、AIの判断や行動に対する透明性や説明責任が低くなる可能性があるでしょう。
例えば、AIがM&Aターゲットや戦略を選択した理由や根拠を明確に示せない場合があります。
また、AIが価格交渉やシナジー創出において不公平な条件や結果を生み出す場合もあります。

 

※課題②:AIの倫理や社会的影響に対する配慮が不十分

AIは人間の代わりに判断や行動を行いますが、その際に人間の倫理や社会的影響に対する配慮が不十分な場合があります。
これにより、AIの判断や行動が人間の利益や幸福に反する可能性もあるでしょう。
例えば、AIがM&Aターゲットや戦略を選択する際に人間の価値観や感情を無視する場合があります。
また、AIが価格交渉やシナジー創出において不正や差別を引き起こす場合もあるでしょう。

 

※課題③:AIの導入や運用に必要な人材や組織文化が不足している

AIは高度な技術であるため、その導入や運用には高い人材や組織文化が必要です。
しかし、M&Aに関わる企業や組織は、AIに対する理解やスキル、姿勢などが不足している場合があります。
これにより、AIの導入や運用において障害や遅れが発生する可能性もあります。
例えば、AIに対する教育やトレーニングが不十分な場合がありますし、AIと協働するための組織文化や制度が整備されていない場合もあるでしょう。

 


【DXが進んでも人の役割は残る:M&Aにおける心のサポートと専門的なアドバイス】

DXが進む中で、M&A仲介における人の役割はどうなるのでしょうか?
DXがもたらすメリットを享受しつつも、人が果たすべき重要な役割は残っています。

そのひとつは、心のサポートです。
M&Aは経営者や社員にとって大きな変化であり、不安やストレスを感じることが多いです。
DXによってオンラインでのコミュニケーションが増えると、対面で感じられる温かみや信頼感が失われる可能性もあります。
そこで、人は相手の感情やニーズを汲み取り、共感や励ましを示すことで、心のサポートを提供することができます。
心のサポートは、M&Aの成功だけでなく、相手の幸福感や満足度も高めることができるでしょう。

もうひとつは、専門的なアドバイスです。
M&Aは複雑で多岐にわたるプロセスであり、法律や会計、税務などの専門知識が必要です。
DXによって情報収集や分析が容易になるとしても、それらの情報を正しく理解し、適切な判断や行動を導くことは容易ではありません。
また、会社や事業の良し悪しは、案外主観的に決まります。

そこで、人は自身の経験や知見を活かして、相手に最適なアドバイスを提供することが求められます。
専門的なアドバイスは、M&Aのリスク回避や価値創出だけでなく、相手の信頼関係やパートナーシップも強化することができるでしょう。

このように、M&A仲介のDXが進んでも人の役割は残ります。むしろ、DXによって人の役割はより重要になるでしょう。
人はDXを活用しながらも、人間らしさを失わずにM&Aを成功させることができます。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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