コラム
- M&A全般経営者の悩み
M&Aで多い失敗理由と失敗の回避策
M&Aは買い手(譲受)企業にとって会社の成長のための有効な手段の一つですが、必ずしも成功するとは限りません。実際には、M&Aの失敗率は高いと言われています。では、M&Aが失敗する理由とは何でしょうか? また、M&Aの失敗を防ぐためには、どのような対策が必要なのでしょうか? 本稿では、M&Aの失敗理由と対策について解説します。
【M&Aの失敗とは何か? 成功と失敗の基準を明確にする】
M&Aは、会社が他の会社や事業を買収したり合併したりすることで、自社の成長や競争力を高めることを目的とした経営戦略の一つです。M&Aは市場の変化に対応したり、新たな事業領域に進出したり、コスト削減や効率化を図ったりするなど、さまざまなメリットがあります。
しかし、M&Aは成功するとは限りません。実際には、M&Aの失敗率は高いと言われています。例えば、日本郵政は2015年にオーストラリアの物流会社トール・ホールディングスを約6000億円で買収しましたが、その後業績が悪化し、4000億円以上の減損損失を計上しました。また、LIXILは2016年にドイツの水栓器具メーカーのグローエを完全子会社化しましたが、その後グローエの中国子会社で不正会計が発覚し、LIXILの経営陣とグローエの経営陣の対立が深まりました。これらは大企業のM&Aでニュースになるわけですが、中小企業間のM&Aであれば、人知れずもっと失敗しています。
では、M&Aの失敗とは何でしょうか? 一般的には、M&Aの失敗は以下のような状況を指します。
・買収金額が買収先企業の価値に見合わない
・M&A後に買収先企業との統合がうまくいかない
・M&A後に買収先企業の業績や市場シェアが低下する
・M&A後に買収先企業の社員や顧客が離れる
・M&A後に買収先企業に関する法的、規制的、倫理的な問題が発生する
これらの状況は、M&Aの目的であるシナジー効果やコスト削減などが実現できないことを意味します。つまりM&Aの失敗とは、M&Aによって期待された効果や価値が得られないことです。
では、M&Aの成功とは何でしょうか? 逆に考えれば、M&Aの成功は以下のような状況を指します。
・買収金額が買収先企業の価値に見合う
・M&A後に買収先企業との統合がスムーズに進む
・M&A後に買収先企業の業績や市場シェアが向上する
・M&A後に買収先企業の社員や顧客が増える
・M&A後に買収先企業に関する法的、規制的、倫理的な問題が発生しない
これらの状況は、M&Aの目的であるシナジー効果やコスト削減などが実現できたことを意味します。つまりM&Aの成功とは、M&Aによって期待された効果や価値が得られたことです。
M&Aの成功と失敗の基準は、会社や業界によって異なる場合があります。しかし、一般的には、M&Aの目的やビジョンに沿って、買収先企業の価値を高めることができたかどうかが重要な判断基準となるでしょう。
M&Aの成功と失敗を明確にすることは、M&Aの失敗要因を知り、M&Aの失敗確率を下げるために重要です。次に、M&Aの失敗要因についてみていきます。
【M&Aの失敗要因を知る:買収価格・デューデリジェンス・PMIなどのポイントを解説する】
M&Aが失敗する理由は、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。しかし、大きく分けると、以下の2つの段階で失敗する可能性が高いと言えるでしょう。
・M&A前:買収先企業の選定や評価、交渉など
・M&A後:買収先企業との統合や運営など
それぞれの段階で、どのようなポイントに注意すべきなのでしょうか。
▼M&A前:買収先企業の選定や評価、交渉など
M&A前には、買収先企業の選定や評価、交渉などが行われます。この段階で失敗すると、不適切な価格での買収や不利な契約条件に陥る可能性があります。以下のようなポイントに注意しましょう。
<買収先企業の選定>
買収先企業は、自社のM&Aの目的やビジョンに合致するかどうかを慎重に検討する必要があります。例えば、自社が新たな市場に参入したい場合は、その市場で強みを持つ会社を選ぶことが望ましいでしょう。また、自社がコスト削減や効率化を図りたい場合は、自社と相補的な事業や資源を持つ会社を選ぶことが望ましいです。買収先企業の選定は、M&Aの成功に大きく影響する重要なプロセスです。
<買収先企業の評価>
買収先企業の評価は、買収金額を決めるために必要なプロセスです。買収先企業の評価は、財務分析や市場分析だけでなく、デューデリジェンス(DD)も行われます。DDでは、買収先企業の法的・会計的・税務的・人事的・技術的・環境的・社会的なリスクや問題点を洗い出します。DDは、買収金額だけでなく、契約条件や統合計画にも影響する重要なプロセスです。
<買収先企業との交渉>
買収先企業との交渉は、買収金額や契約条件を決めるために必要なプロセスです。交渉では、自社と買収先企業の利益や目的を調整しながら、合意に達することを目指します。交渉では、買収金額だけでなく、買収後の経営権や株式比率、買収先企業の経営陣や社員の扱い、買収に関する保証や責任など、さまざまな要素が話し合われます。交渉は、M&Aの成功に大きく影響する重要なプロセスです。
M&A前には、以上のようなポイントに注意することで、M&Aの失敗を防げるかもしれません。しかし、M&A前にうまくいっても、M&A後に失敗する可能性はあります。次に、M&A後に注意すべきポイントについてみていきます。
▼M&A後:買収先企業との統合や運営など
M&A後には、買収先企業との統合や運営などが行われます。この段階で失敗すると、PMI(統合作業)の失敗や業績低迷などに陥る可能性があります。以下のようなポイントに注意しましょう。
<PMI(統合作業)>
PMIは、Post Merger Integrationの略で、M&A後に買収先企業と自社を統合することです。PMIでは、事業戦略や組織構造、人事制度や報酬制度、会計基準や情報システムなど、さまざまな面での調整が必要です。PMIでは、M&Aの目的であるシナジー効果やコスト削減などを実現することを目指します。PMIは、M&Aの成功に大きく影響する重要なプロセスです。
<買収先企業との関係構築>
買収先企業との関係構築は、PMIだけでなく、M&A後の運営にも必要なプロセスです。関係構築では、買収先企業の経営陣や社員、顧客や取引先などと良好な関係を築くことを目指します。関係構築では、自社と買収先企業の文化や価値観の違いを尊重しながら、コミュニケーションや協力を図ります。関係構築は、M&Aの成功に大きく影響する重要なプロセスです。
M&A後には、以上のようなポイントに注意することで、M&Aの失敗を防ぐことができるでしょう。しかし、M&Aは一度成功したからといって安心できるものではありません。M&A後も会社経営は続きますので、M&A後も継続的にフォローアップや改善策を考える必要があります。
【M&Aの失敗確率を下げるには? M&Aのプロセスやステークホルダーの役割を理解する】
M&Aの失敗を防ぐためには、M&Aのプロセスやステークホルダーの役割を理解することが重要です。M&Aのプロセスとは、M&Aの計画から実行、統合、評価までの一連の流れです。M&Aのステークホルダーとは、M&Aに関係する人や組織のことで、自社や買収先企業だけでなく、株主や取引先、社員や顧客、政府や規制機関などが含まれます。
M&Aのプロセスやステークホルダーを理解することで、以下のようなメリットがあります。
・M&Aのリスクや問題点を事前に把握することができる
・M&Aの効果や価値を正しく評価することができる
・M&Aに関係する人や組織と良好な関係を築くことができる
M&Aのプロセスやステークホルダーを理解するためには、以下のような対策が必要でしょう。
▼M&Aの専門家やアドバイザーに相談する
M&Aは複雑で難しいものです。自社だけでM&Aを進めるのは危険だと思います。M&Aの専門家やアドバイザーに相談することで、M&Aのプロセスやステークホルダーに関する知識や経験を得ることができます。また、M&Aの専門家やアドバイザーに相談することで、自社にとって最適な買収先企業や買収金額、契約条件などを提案してもらうことができます。アドバイザーなしで買い手(譲受)企業と売り手(譲渡)企業が直接交渉をすると、安く買いたい買い手(譲受)企業は荒探しをし始め、高く売りたい売り手(譲渡)企業はネガティブな要素を隠し始めるため、だいたいもめることになります。ひどい場合は激しい口論となり、手が出てしまう危険すらあるので注意してください。
▼M&Aに関係する人や組織とコミュニケーションを取る
M&Aは自社だけで決めるものではありません。M&Aに関係する人や組織とコミュニケーションを取ることで、M&Aの目的やビジョンを共有したり、意見や要望を聞いたり、反応や感情を把握したりすることができます。また、コミュニケーションを取ることで、信頼や協力を得たり、不安や抵抗を和らげたりすることができます。
M&Aに近道はありません。早く決めたいという気持ちを抑え、着実に進めた方が長い視点では良い結果となるでしょう。「ゆっくりはスムーズ。スムーズは早い」という言葉は、M&Aにも当てはまります。
中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。