コラム
- M&A全般コンサルタントレポート
中小企業M&Aの成功事例(鉄板焼き店・英会話スクールのケースとオンラインコミュニティ・ダイニングバーのケース)
本稿では、前回のコラムに引き続き、異業種間のM&Aにおける成功事例を2つご紹介します。それぞれの事例で、M&Aの目的や背景、手法や成約内容、シナジー効果や成果などを解説していきます。M&Aの成功につながったポイントや、失敗を避けるためのヒントもお伝えしますので、中小企業の経営者やM&Aに興味のある方は参考にしてみてください。
【中小企業M&Aの成功事例:鉄板焼き店と英会話スクール】
まずは、東京都内の鉄板焼き店が同じエリアにある英会話スクールをM&Aした事例をご紹介します。買い手(譲受)企業の鉄板焼き店は、お好み焼きが人気のお店です。一方の売り手(譲渡)企業の英会話スクールは、アメリカ人、カナダ人、オーストラリア人のネイティブスピーカー講師が在籍する個別指導の英会話スクールです。
▼M&Aの目的・背景
鉄板焼き店は、創業から30年以上続く老舗。王道のお好み焼きやたこ焼き、焼きそばが人気で、常連客や観光客で賑わっていました。しかし、経営者であるTさんは、次のような課題を感じていました。
・飲食業界は競争が激しく、新規客の獲得が難しい
・コロナ禍で外食需要と外国人観光客が減少し、売上が低下している
・後継者が見つからず、事業承継に悩んでいる
一方の英会話スクールは、10年前に開校。外国人講師がマンツーマンでレッスンを行うスタイルで、ビジネス英語や旅行英語などのコースがあります。しかし、経営者であるSさんは、次のような課題を抱えていました。
・英会話スクールも競争が激しく、集客が困難である
・コロナ禍で対面式のレッスンが減り、オンラインレッスンに切り替えて単価が下がった
・ネイティブスピーカーの人材確保や教育が大変である
このように、鉄板焼き店と英会話スクールはそれぞれ異なる業種ですが、似たような悩みを持っていました。当初は事業提携を検討していましたが、譲渡の話が出始めたことからM&Aアドバイザーを間に入れてデューデリジェンスや交渉をスタートしました。
▼M&Aの手法
鉄板焼き店と英会話スクールのM&Aでは、株式譲渡が使われました。鉄板焼き店が英会話スクールの株式をすべて買い取り、英会話スクールを完全子会社化しています。このM&Aでは、以下の成約内容となりました。
・鉄板焼き店が英会話スクールの株式を営業利益4年分の譲渡金額ですべて買い取る
・英会話スクールは教室を閉室し、鉄板焼き店をリニューアルして英会話や異文化を体験できる英会話ダイニングに変更する
・英会話ダイニングの経営者には、鉄板焼き店のTさんが就任する
・英会話ダイニングの教育責任者には、英会話スクールのSさんが就任する
▼M&Aの成果
このM&Aは、両社にとって大きな成果をもたらしました。具体的には、以下のような効果を得ています。
・鉄板焼き店は、英会話スクールの生徒や講師を新規客として獲得できた
・鉄板焼き店は、英会話スクール講師の英語力を活かして、外国人客の対応を強化できた
・鉄板焼き店は、人気商品であるお好み焼きやたこ焼き、焼きそばを各国の人気料理のテイストを加えてアレンジし、人気の新商品を複数生み出すことができた
・英会話スクールは、鉄板焼き店の常連客やスタッフを生徒として獲得できた
・英会話スクールは、鉄板焼き店の料理や文化を教材として活用できた
・英会話スクールは、鉄板焼き店の資金力やブランド力を借りて、広告や設備などの投資ができた
今回のM&Aでは、両社が持つ強みや経営資源を有効に活用し、シナジー効果を発揮することができました。また、TさんとSさんは、それぞれの得意分野で新事業に貢献し、良好な関係を築きました。
▼M&A成功のポイントと失敗を避けるヒント
この事例から、M&A成功のポイントや失敗を避けるヒントを以下のようにまとめてみました。
【M&A成功のポイント】
・異業種でも相乗効果が期待できる会社とM&Aする
・M&A後も両社の強みや特色を尊重し、協力し合う
・M&A前にしっかりと目的や条件を話し合い、合意する
・M&A後の新規事業のコンセプトづくりや計画を明確にしておく
【失敗を避けるヒント】
・相手の財務状況や経営状況を詳しく調査する
・相手の企業文化や価値観に配慮し、コミュニケーションを取る
・どの人材がM&A後も残ってくれるのか、明確にしておく
・M&A後も共同事業として一緒に取り組む
【中小企業M&Aの成功事例:オンラインコミュニティとダイニングバー】
次にご紹介するのは、とあるビジネス系オンラインコミュニティが神奈川県内のダイニングバーをM&Aした事例です。買い手(譲受)企業のビジネス系オンラインコミュニティは、経営コンサルタントが主催するオンラインサロン。一方の売り手(譲渡)企業のダイニングバーは、羽田空港からほど近いエリアにある隠れ家的なバーです。
▼M&Aの目的・背景
ビジネス系オンラインコミュニティは、経営コンサルタントが主催しているオンラインサロンで、会員は経営者や起業家などのビジネスパーソンです。このオンラインコミュニティは、オンラインでの情報交換や勉強会だけでなく、オフラインでの交流も重視しています。しかしコロナ禍により、オフラインイベントの開催が困難になりました。そこで、自分たちの会員専用のオフラインスペースを持つことを検討しました。
神奈川県内のダイニングバーは、羽田空港からすぐのエリアにあり、隠れ家的な立地やデザインが魅力です。このバーは、高級感ある雰囲気と美味しい料理で人気がありましたが、コロナ禍で客足が減少しました。また、店主は後継者がいないことも悩みでした。
オンラインコミュニティの代表とダイニングバーのオーナーは、M&A仲介会社を通じて知り合い、M&Aによって互いの課題を解決することを決めました。
▼M&Aの手法
オンラインコミュニティは、事業譲渡の形でM&Aを行い、ダイニングバーの経営を引き継ぎました。物件等の名義変更を終えると、ダイニングバーの店主は引退することになりましたが、店舗運営に関するノウハウやレシピなどを引き継ぐために、一定期間は顧問として残ることになりました。
▼M&Aの成果
M&A後、オンラインコミュニティはダイニングバーを自分たちの会員専用のオフラインスペースとして活用しました。会員は予約制でダイニングバーを利用できるようになり、また、オンラインサロンの内容に合わせて、ダイニングバーでは特別なメニューやイベントを提供するようになりました。例えば、経営戦略やマーケティングなどのテーマに沿ったトークセッションやワークショップを開催したり、ビジネス書や雑誌を読むことができるブックカフェにしたり、読書会を企画・開催しました。
このようにして、オンラインコミュニティはオフラインでの交流を促進し、会員同士のつながりや満足度を高めることができました。また、ダイニングバー事業としても、安定した収入源を得ることができました。
▼M&A成功のポイントと失敗を避けるヒント
この事例から、M&A成功のポイントや失敗を避けるヒントを以下のようにまとめてみました。
【M&A成功のポイント】
・両者のビジョンや価値観が合致していたこと
・両者の強みや弱みが補完しあっていたこと
・両者のコミュニケーションがスムーズに行われたこと
・両者の文化やブランドを尊重し、変化に対応したこと
【失敗を避けるヒント】
・M&Aの目的や戦略を明確にすること
・M&Aの相手を慎重に選ぶこと
・M&Aの価格や条件を適切に評価すること
・M&Aのプロセスやリスクを管理すること
・M&A後の統合やフォローアップを行うこと
以上が、中小企業のM&Aで成功した2つの事例の紹介です。M&Aは、事業の成長や競争力の強化、事業承継などの目的で行われる有効な手段ですが、すべてのM&Aが成功するわけではありません。成功事例を参考にしながら、シナジーのありそうな売り手(譲渡)・買い手(譲受)企業を検討してみてください。
中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。