コラム

M&Aは、会社の成長や変革に大きな影響を与える重要な取引です。しかし、M&Aには成功するものと失敗するものがあります。成功するためには、M&Aの目的や戦略、相手企業との相性や企業文化、統合後の経営体制などを慎重に検討する必要があるでしょう。本稿では、中小企業のM&Aで成功した事例を2つ紹介します。それぞれの事例で、M&Aの目的や背景、手法や成約内容、シナジー効果や成果などを解説していきます。

 


【中小企業M&Aの成功事例:美容化粧品販売会社と女性向けオウンドメディア運営会社】

まずは、美容化粧品販売会社と女性向けオウンドメディア運営会社がM&Aを行った事例をご紹介します。美容化粧品販売会社は、女性向けの美容化粧品を企画し、実店舗で販売する会社です。女性向けオウンドメディア運営会社は、30代・40代の働く女性をターゲットに美容やグルメ、ライフスタイル情報を発信するメディアを運営している会社です。両社は顧客層が似ていたため、M&Aについて前向きに検討することができました。

 

▼M&Aの目的・背景

売り手(譲渡)企業は、美容化粧品の企画・販売を行っている会社です。美容化粧品販売会社は、オーガニックやナチュラルな素材を使ったスキンケアやヘアケア製品を自社ブランドで企画開発しています。主な販路は、直営店です。

買い手(譲受)企業は、女性向けオウンドメディア運営事業を行っている会社です。女性向けオウンドメディア運営会社は、美容や健康、グルメ、ライフスタイルなどに関する情報を発信するウェブサイトを運営しています。ウェブサイトは、月間約100万PVのアクセス数があり、広告収入やアフィリエイト収入で収益を得ています。

美容化粧品販売会社は、美容化粧品市場で競争力を高めるために、自社製品の認知度やブランドイメージを向上させる必要がありました。しかし、直営店だけでは展開に限界があり、広告費用もかかります。そこで、美容化粧品販売会社は自社製品に関心が高い女性層に直接アプローチできる方法を探していました。

一方の女性向けオウンドメディア運営会社は、ウェブサイトのコンテンツやサービスの充実化を図るために、新たな収益源やパートナーを探していました。しかし、自社で新規事業を立ち上げるには資金や人材が不足しており、難しい状況でした。そこで、女性向けオウンドメディア運営会社は自社メディアと相性が良くて協力できる会社を探していました。

両社は共通の顧客層である女性に向けてビジネスを展開しており、お互いに興味を持ちました。そこで、両社はM&Aによって協力関係を築くことにしました。

 

▼M&Aの手法

両社は、株式交換によってM&Aを行いました。具体的には、美容化粧品販売会社が女性向けオウンドメディア運営会社の全株式を取得し、女性向けオウンドメディア運営会社の株主に対して美容化粧品販売会社の新株予約権付社債(CB)を交付しました。CBは5年後に美容化粧品販売会社の株式と交換できる権利です。このM&Aにより、美容化粧品販売会社は女性向けオウンドメディア運営会社を完全子会社化しました。

 

▼M&Aの成果

このM&Aによって、両社は以下のようなシナジー効果を得ることができました。

美容化粧品販売会社は、女性向けオウンドメディア運営会社が運営するウェブサイトを通じて、自社製品のPRや販売促進を行うことができました。ウェブサイトの読者層は美容化粧品販売会社のターゲット層と一致しており、自社製品に関心が高い女性に直接アプローチできました。また、ウェブサイトのコンテンツに自社製品の情報やレビューを掲載することで、自社製品の認知度やブランドイメージを向上させることができました。

女性向けオウンドメディア運営会社は、美容化粧品販売会社から提供される美容化粧品に関する専門的な知識や情報を活用して、ウェブサイトのコンテンツやサービスの充実化を図ることができました。ウェブサイトの読者にとって有益な情報を提供することで、読者の満足度やリピート率を高めることができました。また、美容化粧品販売会社の自社製品を紹介することで、アフィリエイト収入や広告収入を増やすことができました。

このM&Aによって、両社はそれぞれの強みを活かして事業拡大を図ることができました。自社ECサイトや直営店だけでなく、ウェブサイトも販路として活用することで、売上高を増加させることができています。ウェブサイトのコンテンツやサービスの質を向上させることで、アクセス数や収益を増加させることができました。

 


【中小企業M&Aの成功事例:就労継続支援A型事業とECサイト事業】

次にご紹介するのは、就労継続支援A型事業の運営会社とECサイト事業の運営会社がM&Aを行った事例です。就労継続支援A型事業は、障がい者の方々に対して就労支援や職業訓練を行っていますECサイト事業は、Tシャツや雑貨を販売している会社です。両社は、新たなチャレンジとしてM&Aで協業を始めました。

 

▼M&Aの目的・背景

売り手(譲渡)企業は、就労継続支援A型事業を行っている会社です。同社は、障がい者雇用促進法に基づいて設立された特例子会社です。障がい者の方々に対して就労支援や職業訓練を行っており、主な事業内容はオフィス清掃やビルメンテナンスなどです。

買い手(譲受)企業は、ECサイト事業を行っている会社です。同社は、オリジナルデザインのTシャツやマグカップなどの雑貨を販売するECサイトを運営しています。ECサイトでは、顧客から注文を受けてから商品を製作・発送するオンデマンド方式を採用しています。

就労継続支援A型事業の運営会社は、利用者数や売上高が伸び悩んでいました。また、オフィス清掃やビルメンテナンスなどの事業内容に対して、利用者から不満や不安が多く寄せられていました。そこで、自社の事業内容を変更する必要がありました。しかし、自社で新しい事業を立ち上げるには資金や人材、ノウハウが不足しており、困難な状況でした。そこで、自社の事業と相性が良く協力できる会社を探していました。

一方のECサイト運営会社は、ECサイト事業で売上高や利益率が高まっていました。しかし、商品の製作・発送を外部の協力会社に委託しており、品質や納期に不安がありました。また、社会貢献活動にも積極的に取り組んでおり、障がい者雇用支援にも関心がありました。そこで、自社の商品の製作・発送を自社で行えるようにするとともに、障がい者雇用支援を行える会社を探していました。

両社は相互補完できる可能性が高いと、お互いに興味を持ちました。そこで、両社はM&Aによって協力関係を築くことにしました。

 

▼M&Aの手法

両社は、株式譲渡によってM&Aを行いました。具体的には、ECサイト運営会社が就労継続支援A型事業の運営会社の全株式を取得し、就労継続支援A型事業の運営会社の株主に対してECサイト運営会社の株式を交付しました。このM&Aにより、ECサイト運営会社は就労継続支援A型事業の運営会社を完全子会社化しました。

 

▼M&Aの成果

このM&Aによって、両社は以下のようなシナジー効果を得ることができました。

・ECサイト運営会社は、就労継続支援A型事業の運営会社が行っていた就労継続支援A型事業をECサイト事業に転換することで、自社の商品の製作・発送を自社で行えるようになりました。これによって、品質や納期の管理が容易になり、顧客満足度やリピート率を高めることができました。また、ECサイト運営会社は就労継続支援A型事業の運営会社の利用者である障がい者をグループ内の自社の従業員として雇用することで、障がい者の雇用支援を行うとともに、社会貢献活動としてPRすることができました。

・就労継続支援A型事業の運営会社は、ECサイト運営会社から提供されるECサイト事業に関する資金や人材、ノウハウを活用して、新しい事業内容に移行することができました。障がい者の方々に対してオリジナルデザインのTシャツやマグカップなどの雑貨を製作・発送する職業訓練や就労支援を行いました。これによって、障がい者の方々のスキルや自信を向上させるとともに、収入や生活水準を向上させることができました。

このM&Aによって、それぞれの強みを活かして事業拡大を図ることができました。ECサイト運営会社は自社の商品の製作・発送を自社で行うことで、コスト削減や品質向上などの効果を得ることができました。就労継続支援A型事業の運営会社は、新しい事業に移行することで、利用者の満足度向上や売上高を増加させることができました。

 

以上が、中小企業のM&Aで成功した2つの事例の紹介です。M&Aは、事業の成長や競争力の強化、事業承継などの目的で行われる有効な手段ですが、すべてのM&Aが成功するわけではありません。成功事例を参考にしながら、シナジーのありそうな売り手・買い手企業を検討してみてください。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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