コラム

M&Aには、相手企業の選定や評価、交渉や契約、統合後の経営など、多くの課題があります。課題があるとは言え、M&Aは大手企業だけでなく、中小企業にとっても有効な経営戦略の一つです。中小企業のM&Aは、どうすれば成功するのでしょうか? 前々回と前回では、同業間のM&Aの事例についてお伝えしました。本稿では、異業種間のM&Aの成功事例をご紹介します。

 


【中小企業M&Aの成功事例:エステサロンと宿泊施設】

まずは、エステサロンと宿泊施設がM&Aを行った事例をご紹介します。エステサロンは、女性向けの美容サービスを提供する店舗宿泊施設は、温泉や食事を楽しめる旅館です。両社は顧客層が似ていたため、M&Aについて前向きに検討することができました。

 

▼M&Aの目的・背景

エステサロンは、コロナ禍で売上が減少し、資金繰りに苦しんでいました。また、競合他社との差別化や新規顧客の獲得にも課題を感じていました。一方の宿泊施設も、コロナ禍で旅行需要が低下し、稼働率が低迷していました。また、老朽化した施設の改修費用や後継者不在の課題も抱えていました。

両社は同じ銀行から融資を受けていたため、銀行員の紹介で出会いました。両社は、お互いの事情や課題を共有し、協力し合うことで解決できる可能性を見出しました。両社のM&Aの目的は、以下のとおりです。

エステサロンは、旅館から資金調達や経営ノウハウを得ることで、経営安定化と差別化を図る。旅館は、エステサロンから美容サービスや顧客基盤を得ることで、施設改修費用の捻出と集客力向上を図る。両社は、相互に顧客やサービスを紹介し合うことで、売上拡大とリピート率向上を図る。

 

▼M&Aの手法

両社は以下の手法でM&Aを行いました。

・旅館がエステサロンの株式の過半数を取得し、完全子会社化する。
・旅館がエステサロンに出資し、経営の安定化を支援する。
・エステサロンは旅館に美容サービスの提供や人材の派遣を行い、施設の改修費用の一部を負担する。
・両社は共通のブランド名やロゴを使用し、統一感のあるサービスを提供する。
・両社はお互いの顧客に割引や特典を提供し、クロスセルやアップセルを促進する。

 

▼M&Aの成果

両社はM&Aによって以下のような成果を得ることができました。

エステサロンは、旅館からの資金調達や経営ノウハウの提供によって経営が安定し、競合他社との差別化を図ることができた。
旅館は、エステサロンからの美容サービスや顧客基盤の提供によって施設改修費用を捻出することができ、集客力が向上した。

両社は、相互に顧客やサービスを紹介し合うことで売上が拡大し、リピート率を向上させることができました。この事例は、中小企業同士が協力し合うことでお互いの課題を解決し、シナジー効果を発揮した良い例です。両社は顧客層が似ていたことから、M&A後もブランドイメージやサービス内容が一致しやすかったと考えられます。

 


【中小企業M&Aの成功事例:カフェと結婚相談所/婚活サロン】

次にご紹介するのは、カフェと結婚相談所/婚活サロンがM&Aを行った事例です。カフェは、女性向けのオシャレな空間でコーヒーやスイーツを提供するお店結婚相談所/婚活サロンは、男女の出会いや結婚相手探しを支援する会社です。両社は、新規事業へのチャレンジとして、M&Aで協業を始めました。

 

▼M&Aの目的・背景

カフェは、コロナ禍で外食需要が低下し、売上が減少していました。給付金などで持ちこたえてはいたものの、競合との差別化やジリ貧感に行き詰まりを感じていました。一方の結婚相談所/婚活サロンは、コロナ禍で婚活ニーズが高まり、売上が増加していました。しかし、店舗拡大や知名度に課題を感じていました。

両社は、複数ある店舗のうち1店が同じ商店街に店舗を構えており、交流がありました。両社はM&Aアドバイザーを介してお互いの事情や課題を整理し、協力し合うことで解決できる可能性を見出しました。両社のM&Aの目的は、以下のとおりです。

カフェは、結婚相談所/婚活サロンから新規事業のノウハウや顧客基盤を得ることで、売上拡大と差別化を図る。結婚相談所/婚活サロンは、カフェから店舗スペースやブランド力を得ることで、店舗展開と集客力向上を図る。両社は、カフェで婚活イベントやデートプランなどのサービスを提供することで、相乗効果を発揮する。

 

▼M&Aの手法

両社は以下の手法でM&Aを行いました。

・結婚相談所/婚活サロンがカフェの株式の過半数を取得し、完全子会社化する。
・結婚相談所/婚活サロンがカフェに出資し、新規事業の立ち上げを支援する。
・カフェは結婚相談所/婚活サロンに店舗スペースの一部を提供し、婚活サロンとして運営する。
・両社は共通のブランド名やロゴを使用し、統一感のあるサービスを提供する。
・両社はカフェで婚活イベントやデートプランなどのサービスを実施する。

 

▼M&Aの成果

両社はM&Aによって以下のような成果を得ました。

カフェは、結婚相談所/婚活サロンからの新規事業のノウハウや顧客基盤の提供によって売上が拡大し、競合他社との差別化ができた。
結婚相談所/婚活サロンは、カフェからの店舗スペースやブランド力の提供によって店舗展開が加速し、集客力が向上した。

両社は、カフェで婚活イベントやデートプランなどのサービスを提供することでシナジーを得ることができました。この事例は、中小企業同士がM&Aでコラボレーションすることで新規事業に挑戦し、シナジーを発揮した良い例です。両社は同じ商店街に店舗を構えていたため、地域性もM&A成立に寄与したと思われます。

 

このコラムでは、業種の異なる中小企業がM&Aを成功させた事例を2つ紹介しました。両事例とも、顧客層が似ている会社同士がM&Aで協力し合い、お互いの課題を解決し、シナジーを発揮しています。中小企業にとってM&Aは有効な経営戦略の一つですが、M&Aにはリスクも伴います。相手企業との価値観や企業文化の違い、経営統合後の人事や組織の整理、シナジーの発揮など、成功させるためには慎重な準備と実行が必要ですM&Aを検討する際は、M&A仲介会社やM&Aアドバイザーに相談しながら自社の強みや目的、課題を明確にし、相手企業との相性や信頼関係を確認することが大切です。その方が、よりスムーズなM&Aを実現できるでしょう。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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