コラム

M&Aには、相手企業の選定や評価、交渉や契約、統合後の経営など、多くの課題があります。中小企業のM&Aは、どうすれば成功するのでしょうか? 前回は、とある飲食店と製造業のM&Aの事例についてお伝えしました。本稿では、クリニックと介護施設のM&Aの成功事例をご紹介します。

 


【中小企業M&Aの成功事例:クリニック】

この事例では、クリニックA院がクリニックB院を買収したケースをご紹介します。

売り手(譲渡)企業B院
B院は、東京都内の美容外科クリニックです。開業から10年ほど経ちますが、近年は競合他院の増加や顧客のニーズの多様化に対応できず、売上や利益が低迷していました。B院は自身の専門性や信頼性を活かすためにM&Aを検討するようになりました。

≪買い手(譲受)企業A院≫
A院は、埼玉県内の審美歯科クリニックです。開業から5年ほどで、現在は約10人のスタッフを抱えています。A院は美容市場の拡大に伴い、自身の知名度や規模を拡大させるためにM&Aを検討していました。

 

▼M&Aの目的・背景

B院は自身の専門性や信頼性を活かし、経営と運営を分離して施術に専念するためにM&Aを検討していましたが、買収対象となるクリニックが少なかったです。そこで、B院はM&A仲介会社に相談し、A院とのマッチングを実現しました。

A院は自身の知名度や規模を拡大させるためにM&Aを検討していましたが、買収対象となるクリニックが高値になっていました。そこで、A院はM&A仲介会社に適正価格や対象となるクリニックのリサーチ等を相談し、B院とのマッチングを実現しました。

両者は、美容関連という近しい分野ではあるものの、地域や客層、特化分野が異なることから、互いに競合しないことや、シナジー効果が期待できることを認識しました。また、両者の医師は同年代であり、美容に関する考え方が共通していました。これらの要因から、両者は相性が良いと感じました。

 

▼M&Aの手法・成果

両者は事業譲渡によるM&Aを行いました。A院はB院の営業権や資産を取得し、B院の医師はA院のクリニックの医師として雇用されました。譲渡金額は、B院の売上高の約2倍程度です。

M&A後、統合作業を進めました。A院はB院の屋号やロゴなどを変更しました。これは、A院の知名度やイメージを強化するためです。また、A院はB院のスタッフに教育やコミュニケーションを行い、両院のサービスや技術を統一しました。

このM&Aによって、売り手(譲渡)側であるB院の医師はA院の医師として、自身の得意な施術や治療に専念することができました。また、B院はA院のクリニックの規模や知名度によって、新たな患者を集患することができました。一方、買い手(譲受)側であるA院は、知名度や規模を拡大させることができました。A院は、B院のクリニックを継承することで都内進出を実現し、結果的には埼玉のクリニックのブランド向上にもつながっています。

 


【中小企業M&Aの成功事例:介護施設】

次の事例では、調剤薬局Aが介護施設Bを買収したケースをご紹介します。

売り手(譲渡)企業B
Bは、千葉県にある介護付き有料老人ホームです。創業から20年以上経ちますが、近年は人手不足や人件費のコスト増、採用コストなどに悩まされていました。Bの経営者は、自身の年齢のことも考え、M&Aによる売却を検討するようになりました。

買い手(譲受)企業A
Aは、千葉県で調剤薬局を運営しています。創業から10年ほどで、現在は3つの薬局を展開しています。Aの経営者は、経営の多角化ためにM&Aを検討していました。

 

▼M&Aの目的・背景

Bは出口戦略としてM&Aを検討していましたが、譲渡金額の設定に悩んでいました。そこで、BはM&A仲介会社に相談し、Aとのマッチングを実現しました。

Aは経営の多角化のためにM&Aを検討していましたが、買収対象となる同地域の介護施設を自力では見つけられませんでした。そこで、AはM&A仲介会社に相談し、Bとのマッチングを実現しました。

両者は、サービス内容が異なることから、競合しないことやシナジー効果が期待できることを認識しました。また、両者の経営者は「高齢者のQOLを向上させたい」という共通する理念を持っていました。その点からも意気投合し、Aが事業を引き継ぐことになりました。

 

▼M&Aの手法・成果

両者は、株式譲渡によるM&Aを行いました。AはBの介護施設を運営する会社の株式を取得し、B社はA社の完全子会社となりました。譲渡金額は、利益の約3年分です。

M&A後、統合作業に取り組みました。A社はB社の介護施設をそのまま継承し、屋号やロゴもそのまま残すことにしました。すでにBの介護付き有料老人ホームの名前は地域に根付いており、変更する方がリスクと判断したためです。自分で名付けた施設名称がそのまま活かされることになり、Bの経営者も喜んでいます。

このM&Aにより、売り手(譲渡)側であるBは事業を次世代に引き継ぐことができました。一方、買い手(譲受)側であるAは、経営に多角化を実現することができました。調剤薬局とのシナジーにより、売上・収益ともに向上しています。同じ顧客(患者)に複数のサービスを提供することで、経営面でも良い効果を生んでいるようです。

 

上記のように、近しい業界・分野であっても、提供するサービスが異なればM&A後に高いシナジーを得られることがあります。どんな業種が良いか、自分だけではアイデアが出てこないこともありますので、M&A仲介会社やM&Aアドバイザーに相談してみると良いアイデアや、ときには良い譲渡案件も出てくるかもしれません。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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