コラム

会社員の方がM&Aで副業・複業を始めるケースや、M&Aで独立・起業するケースが増えています。なぜM&Aが会社員の方にとっても身近になってきたのでしょうか。筆者は、「起業するならM&Aで」という時代が来ると感じていますが、本稿ではそのメリットやデメリットについてまとめてみます。

 


【M&Aによる起業が増えている理由】

2019年に厚生労働省から「働き方改革」が発表されました。長時間労働の是正や、柔軟な働き方の実現に向けた改革で、各企業や行政等で推進されています。

リモートワークやリゾートワーク、時短勤務、副業解禁などの柔軟な働き方が認められるようになった一方で、これまでの終身雇用の前提が崩れかけています。

そのような状況から、会社員のままでい続けることがリスクであると考える人も増えてきました。副業を始めて本業以外にもつながりを持ち、また、社外でも通用するスキルや知識を身につけることを考えるようになってきています。

中には独立・起業する会社員の方もいて、起業リスクを少しでも下げたいと考え、M&Aという選択肢を取る起業の方法が注目されています

 


【M&Aで起業するメリット】

では、M&Aで起業するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

 

◆時間を買うことができる

M&Aで起業すると、事業が軌道になるまでの期間を短縮することができます。ゼロイチで起業する場合、開業準備や顧客開拓、商品・サービス開発、人材採用、人材育成、資金調達など、すべて一人でやろうとすると時間がかかってしまいます。
M&Aで起業する場合は、すでにある程度軌道に乗っている会社や事業を引き継ぐため、短期間で事業を開始することができ、立ち上がりまでの時間を買うことが可能です

 

◆手間・労力が少なくて済む

前述のとおり、ゼロイチの起業は対応しなければならないことが多岐にわたり、副業・複業で始めるにはハードルが高すぎます。
M&Aで起業する場合は、開業準備にかかる行政等での手続きや顧客開拓、取引先の開拓、商品やサービス開発、人材採用や人材育成の手間と労力を軽減することが可能です

 

◆必要な許認可を引き継げる

イチから事業を立ち上げる場合は、事業に必要な許認可などを申請して取得する必要があります。M&Aで起業する場合は、許認可も引き継げることがありますので、その時間や手間も短縮することができます。新たに申請しても許認可を取得できないこともありますから、そういった面でも起業リスクを下げた状態でスタートすることができるでしょう。

 

◆資金調達のハードルが下がることがある

ゼロイチで起業する場合は、事業計画の不透明さから、金融機関から融資を受けることが難しいこともあります。作り込んだ事業計画を提出しても、説明の根拠が弱いと資金調達ができません。
M&Aであれば、ある程度の実績がすでにあり、見通しも立っているため稟議が通りやすい面もあります。必ずしもすべての金融機関がM&Aの融資に対して積極的なわけではありませんが、M&Aの方がゼロイチの起業よりも計画の不確実性が低いことは確かでしょう。

 


【M&Aで起業するデメリット】

一方で、M&Aで起業するデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

 

◆簿外債務を引き継いでしまう可能性がある

M&Aで会社を取得した場合、想定していなかった簿外債務なども引き継いでしまうリスクがあります。想定外の損失を被ってしまう可能性がありますから、デューデリジェンスの際は注意が必要です。簿外債務がある可能性を感知している場合は、事業譲渡などスキームの変更を検討してリスクを低減すると良いでしょう。

 

◆社員や取引先との関係構築が大変なこともある

M&Aで起業する場合、社員や取引先も引き継ぐことになります。契約関係を引き継ぐことは可能ですが、人間関係まで引き継げるとは限りません。良好な関係を構築、維持できるかどうかは、買い手次第です
事前に社員や取引先に丁寧な説明をすることで理解してもらい、前オーナーとの関係性を維持できるよう準備をしておきましょう。

 

◆ビジネスモデルが長く持続するとは限らない

これまでは事業がうまくいっていたとしても、M&A後もそのままうまくいくとは限りません。会社や事業を取り巻く環境は常に変化していますので、M&A後にすぐにダメになる可能性があります
また、ビジネスモデルの持続性も低くなっている傾向もあり、10年20年と同じビジネスモデルが通用するとは限りません。常に変化に対応する柔軟な姿勢と行動力・実行力が欠かせませんので、安易にM&Aで起業するのではなく、真摯なM&Aアドバイザー・仲介会社と出会って経営に伴走してもらうのが良いでしょう。

 


中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

コラム一覧へ戻る